制約こそが
最高の価値を生み出す

――「何をやらないかを決める」という考え方は非常に興味深いです。その「やらないこと」を決めるという制約が、具体的にプロデューサーの仕事、特に作品の価値を高める上で、どのように機能するのでしょうか。もう少し詳しく教えていただけますか。

宮川:プロデューサーの仕事は、企画を立て、予算や人を集めるだけではありません。プロジェクトに関わる全てのリスクを背負い、最終的な責任を取る立場でもあります。

 撮影現場がどれだけ熱気に満ちていても、予算やスケジュールの観点から「ストップ」をかけなければならないときもある。その冷静な判断力もプロデューサーには不可欠です。

 そして、その上でもっとも重要なのが「売るための仕掛け人」であること。例えるなら、作品という中身を包む「包装紙」を作る仕事です。

 どんなに高価で素晴らしく美しいグラスも、安い包装紙に包まれていたら、その価値は十分に伝わりません。でも、高級百貨店の包装紙に包まれていれば、中身への期待感は一気に高まるでしょう。この「最高の包装紙」を考えるのが我々の仕事です。

 そして、この「包装紙」を考える上で、「やらないこと」を決めるという制約が、強力な武器になるんです。

 何でもアリの状態では、特徴のない、ありきたりな包装紙しか作れません。でも、「この色は使わない」「この素材は使わない」と決めることで、逆にデザインの方向性が研ぎ澄まされ、独創的で魅力的なものが生まれる。まさに制約が創造性を生むんです。

自分なりの戦略と
ビジョンを持っているか

宮川:これは、あらゆるビジネスに通じる真理ではないでしょうか。潤沢な予算や人員がなくても、「我々はこの領域では戦わない」「このやり方は採用しない」と明確に線引きすることで、自分たちの強みが際立ち、独自の価値を提供できるはずです。

 ですから、「あなたの仕事において、絶対に『やらない』と決めていることは何ですか?」この問いに対して、明確に即座に答えられる人は、自分なりの戦略とビジョンを持っている可能性が非常に高い。そしてそのルールが思考のスピードを上げ、アウトプットの質を高める源泉となります。

 逆に、この問いに答えられない、あるいは曖昧(あいまい)な返事しかできない人は、場当たり的に仕事をしているのかもしれません。この問いへの答えにこそ、仕事への覚悟、戦略性が、色濃く映し出されているはずですよ。