スマホ注文は、酔えない
ところが、スマホやタブレット注文は、ここに全力で歯止めをかける。注文したものの単価や累計金額が、リアルタイムで可視化されるからだ。これまでに何杯の酒を飲み、どんな料理を注文し、目下のところ会計がいくらなのかが、いちいち表示されて目に飛び込んでくる。なんなら入店時間と現在までの経過時間まで見えている。
このままのペースで飲み、食べ続ければ、会計はこれくらい。4人で割ったらこれくらい。結構行っちゃいそうだから、少しペースを抑えよう――などという目算も働く。働かせざるをえない。ゴールから逆算した計画性と合理性の産物だ。
これは覚める。文字通り、「酔う」の逆だ。
だいたい、ゴールから逆算などしていたら、気分良く酔うことなどできない。計画性を放棄しているからこそ、酔いが成立するのだ。「酔う」の意味の3、「心を奪われてうっとりする」ためには、身を浸している現在進行形の時間に、数字が刻まれた物差しなど当ててはいけない。
酔うとは、ゴールを設定しないで「たゆたう」ことだ。一方のスマホ注文とは、先にゴールを設定し、費用対効果を一分一秒考えながらの飲み食いを受け入れることだ。
飲んべえの気持ちが分かっていない
究極、呑み助は費用対効果など考えない。得たい結果から逆算などしない。そういうことを考えないために呑む。考えないからうっとりできる。この時間、この空間に気持ちよく没頭できる。
スマホ注文は飲み会に冷静さを持ち込んだが、ノンアルで通す人も増えた現状下、飲み会から酔いが排除されたところで、大勢に影響はないのだろう。2023年のロイヤリティ マーケティングの調査によれば、職場メンバーとの飲み会でお酒を飲む必要はあると思うかという問いに対し、20代から60代の63.9%が「飲酒不要」と回答、20代に限れば実に71.5%が「飲酒不要」と回答した。
冷静さをキープしたまま、節度を保ち、ゴールを先に設定し、費用対効果の高い、意義のある会食を楽しむのが当世風。そりゃあ、飲み会なんて流行らない。







