マツ / PIXTA
NTTドコモビジネスの「KOEL(コエル)」は、UI/UXの改善からスタートし、事業開発と人材育成の両輪で活動を広げてきたインハウスデザイン組織だ。その取り組みは「デザイン部門」の枠を超え、事業を前進させる実働チームであると同時に、全社の文化のアップデートにつながる仕組み作りの実験場にもなっている。KOEL代表の土岐哲生氏、ビジネスデザイナーの金智之(キム・ジジ)氏に、組織にデザインをインストールすることで起きている現在進行形の変化を聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、構成/フリーライター・小林直美、撮影/まくらあさみ)
「セミパブリック」から始まる、ビジネスの新しい動かし方
――KOEL Design Studio(以下、KOEL)は、2020年にNTTコミュニケーションズ(現・NTTドコモビジネス)のインハウスデザイン組織として設立されていますが、現在の活動を教えてください。
土岐 最初はプロダクトの体験設計や画面設計、いわゆるUI/UXの改善が中心でしたが、現在は活動の6〜7割が、事業開発や事業戦略といった上流工程にシフトしています。加えて、最近では、事業戦略や経営戦略の策定に関わる機会も増えています。
――どのような事業に関わっているのでしょうか。
土岐 例えば、NTTグループの新会社として、24年12月に「NTTアクア」が立ち上がった際にはその設立支援を行いました。ここは「循環式陸上養殖」を切り口に地域課題の解決を目指す会社で、KOELはビジネスモデルの設計支援からMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の策定、ブランドデザインまでトータルに手掛けています。KOELでは「行政の支援が届きにくく、企業による課題解決が求められる領域」を「セミパブリック」と定義して積極的に関わっているのですが、NTTアクアへの支援もその一例です。
――「セミパブリック」を重視する背景を教えてください。
金 公共施策を面として広げるだけでは、どうしても隅々まで行き届かず、社会課題が温存されてしまいがちです。かといって取り残されたニッチな部分だけをビジネス化するのも難しい。NTTグループの場合、まずは官公庁の公募に手を挙げ、採択されたら補助事業として実証実験に取り組み、その後、自社事業としてグロースさせていくというパターンで実績を持っています。
こうして生まれた小さな芽を、全国に1700以上ある自治体に横展開できれば「市場」として成立させられます。そのとき大切なのは、「出して終わり」ではなく、「ちゃんと使われる」ところまで伴走すること。そこにKOELの役割があります。「人間中心で考える」というデザインアプローチを使うことで、仕組みとしてちゃんと使われる状況に持っていくことができます。
――デザインアプローチとは、具体的にはどういったプロセスですか。
金 これもセミパブリックの例ですが、クラウド型教育プラットフォーム<まなびポケット>も、最初はなかなか活用が広がりませんでした。そこで、KOELのデザイナーが学校現場をリサーチし、使い方だけではなく、先進校の活用体制など、“生きたノウハウ”をまとめた資料を作成しました。さらに、単に配布するだけでなく、印刷して使うことを前提にデザインし、分かりやすい冊子として配布したところ、利用が一気に拡大しました。デジタルに誘導するためにこそ、ページをめくって、線を引いて……というアナログな手触り感が必要だったんです。
これって、「デザイン思考」そのものです。ビジネスがスタックしたとき、ユーザー視点でヒアリングや観察を行い、プロトタイプを作ってお客さまに当ててみる。すると、何らかの反応が得られるので、良ければそのまま進められるし、悪ければブラッシュアップする。結果、ビジネスとして前に進むことにつながるわけです。







