「受験を頑張って名門中学に入った子どもが、落ちこぼれになってしまいました」
新刊『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』は、東大・京大・早慶・旧帝大・GMARCHへ推薦入試で進学した学生の志望理由書1万件以上を分析し、合格者に共通する“子どもを伸ばす10の力”を明らかにした一冊です。「勉強が苦手だったり、勉強をしたくない子どもにもチャンスがある」こう語る著者は、推薦入試専門塾リザプロ代表の孫辰洋氏で、推薦入試に特化した教育メディア「未来図」の運営も行っています。今回は、中でも中学受験を受けるべきかについて、本書をもとに解説します。

中学受験 勉強 子どもPhoto: Adobe Stock

首都圏で広がる中学受験ブーム

都内では近年、中学受験をする家庭が年々増えています。2020年代には、東京23区の小学6年生のうち、およそ2人に1人が中学受験を経験している区もあるというデータもあるほどです。中学受験を考えている人のほとんどは小3-4年の時から塾に通うのが当たり前であり、小学1年生から塾に通っている人も多いです。そして確かに、これらの時期に数学の計算力や理科社会の暗記などをしっかり勉強した方が、吸収力も高く、その後の一般受験やペーパーテストにおいて有利に働く場合があります。

こうした現状を見ると、親御さんは「子どもを良い大学に入れたいなら中学受験は必須では?」と思ってしまうかもしれません。しかし、実は中学受験に成功したことが、逆に大学受験での大きな失敗に繋がってしまうケースがあるのをご存じですか?

難関中学に入って幸せが遠のいてしまった生徒

中学2年生のAくん。中学受験でなんとか行きたかった第一志望の中高一貫の名門中学に合格し、これで一安心……と思いきや、その中学での勉強に全然付いていけなくなってしまった。中学受験ですっかり燃え尽き症候群になり、ネットゲームにハマってしまって学年最下位に近い点数を連発。勉強のやる気は完全に無くなってしまっているみたい。

塾や家庭教師という選択肢も考えたが、反抗期もあり、全然親の言うことを聞いてくれない。このままではせっかく難関中学に入ったけれど、ダメになってしまうのではないかと不安。
いっそのこと、学校を辞めさせて違う学校に行ってもらった方がいいのではないか?とすら、お母さんは思っている。

こうした「勉強を頑張って名門中学に入った子どもが、落ちこぼれになってしまいました」というケースは、実は非常に多いです。中学受験で難関中学に合格できたはいいものの、その中学高校で成績が低くなってしまうケースですね。自分は開成中学の生徒でこの状態になってしまった生徒を指導したことがありますが、中学から高校に上がるタイミングで通信制高校に転入することになりました。

「深海魚」とは何か

このような生徒のことを、「深海魚」と呼ぶ場合があります。「深海魚」とは、中学受験で難関校に合格したものの、入学後の成績が低迷し、そのまま浮上できなくなってしまった生徒を揶揄した言葉です。進学校の中で上位層にいる“トビウオ”や“イルカ”のような存在ではなく、海の底に沈んでしまった生徒――それが「深海魚」です。

彼らは、もともと非常に努力して中学受験を突破してきたはずの子どもたちです。小学生時代には塾で夜遅くまで勉強し、遊びの時間も削って努力してきた。ところが、入学後に同級生たちのレベルの高さや課題の多さについていけず、「自分はもうダメだ」と思い込んでしまう。その結果、勉強へのモチベーションが著しく低下し、授業にも部活にも参加しなくなってしまう。まさに“沈んでいく”状態です。

中学受験を経験した子どもたちにとって、入学直後の学校の成績は、アイデンティティの源泉です。ところがそこで自信を失ってしまうと、「自分はできない人間なんだ」と思い込んでしまい、チャレンジ精神すら奪われてしまうのです。これが「深海魚化」のメカニズムです。

もちろん、すべての子どもがそうなるわけではありません。難関校に入っても、のびのびと力を発揮する子もいます。しかし、「偏差値が高い=その子にとって良い学校」とは限らない、ということを、私たちはもっと認識しなければならないのです。