厄介なのは、多くの人が自分の思考力が落ちていることに気づかない点です。スマホさえあれば、SNSでもゲームでも、考えなくても楽しめる時代。さらに先述の通り、AIが何でも答えてくれて、自分で考えなくても何とかなる環境が整っています。便利な時代は、実は放っておくと思考力が自然に落ちる時代なのです。

 結果として、人は物事を感情で判断し、表面的な理解にとどまり、思考力が衰えても気づかないまま過ごしてしまうのです。それでは、表面的には便利に見えても、裏では複雑な事象が起きている、この複雑系の時代には対応できません。

どうすれば「深く考える力」を
身につけることができるのか?

週末経営塾写真はイメージです Photo:PIXTA

 では、どうすれば考える力を取り戻せるのでしょうか。

 私は「難しい本を読むこと」と「思考力のある人と話すこと」が大切だと考えています。少し難しい本を読む、理解に時間がかかるテーマに取り組む、自分とは違う考えを持つ人と議論するという時間を意識的に持つことが、思考力を鍛える一番の方法です。

「速く走りたいなら走る練習をするしかない」のと同じで、「深く考えたいなら考える訓練をするしかない」のです。

 そして、私はお客さまにも、「毎日、新聞を読んでください」とお伝えしています。大きな記事のリード文だけでも構いません。自分が関心のない記事まで含めて読んで、時系列で世の中の流れを考えたり、記事間の関連付けができるようになったりすればしめたものです。

 思考力は、ベースとなる情報がないと働きません。情報と情報を結びつけ、自分の意見を持つことが重要なのです。

 そのとき大切なポイントが、感情ではなく、論理で考えるということ。考える力が弱い人ほど感情的になりやすく、意見ではなく感情で動いてしまいます。知識をもとに論理的に考えてこそ、思考力は磨かれるのです。