ラジオは逆効果
子グマの声や音を聞き逃してしまう
巷で効果があると言われているもので、佐藤さんがおすすめしないものはラジオだという。
「ラジオはおすすめしません。音が途切れずに流れていることが逆効果なんです」
佐藤さんによれば、ラジオを流していると周囲の微かな物音、たとえば、子グマの鳴き声や枝を踏む音などを聞き逃してしまうことがあるという。
「子グマの声って特徴的でわかりやすいんですが、ラジオをかけていたらそれが聞こえない。結局、安心しているのは自分だけで、爆音にしない限り遠くにいるクマには届かないし、むしろクマの気配を消してしまいます」
また、佐藤さんがもうひとつ強調するのは「歩くスピード」だ。
「人間が速いペースで歩いていると、クマが逃げる時間を失ってしまいます。結果的に、自分の方から近づいていってしまうことになりかねない」
山の中を駆けるトレイルランニングの人のみならず、山頂を目指して先を急ぎがちな登山者も、佐藤さんいわく「速すぎる」のだという。
また、佐藤さんが山中で危険を感じたときは、一度立ち止まって周囲の音に耳を澄ませ、鈴や笛などで自分の存在を知らせてから進むようにしているという。
「視界が悪く、臭いもなかなか向こう側に届かない峠付近は特に慎重に近づきます」
40年の猟師歴史上「最悪の年だね」
出動要請が毎日のようにかかる
環境省によると、今年度のクマ被害による死者数は全国で13人(10月28日時点)と、統計を取り始めた2006年以降で過去最悪となっている。人身被害者数も過去最多ペースだ。
「今年は長い猟師歴のなかでも最悪の年。クマの出没数は去年の倍なんてもんじゃない。出動要請が毎日のようにかかるし、今日も、箱罠に入ったクマを駆除したところだよ」(モリさん)
クマが人里に出没した場合、民家のそばでの対応は非常に制約が多い。基本、住宅地では銃を使うことができないため、現場で選べる手段は限られる。「だから箱罠をかけるんだ」とモリさんは言う。
高柳さんの住む集落の山際に仕掛けられた箱罠。近くの柿の木を狙って近づいてくるという 撮影:風来堂







