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家の中や学校、スーパー、銀行など、“日常の場”にクマが入り込んでくるという、かつてない事例が相次いで報じられている。人の存在を知りながらも堂々と建物に侵入し、屋内で人間と鉢合わせても逃げない――かつてなら考えられなかったような大胆なクマが、今年は各地で相次いでいる。もし家の中でクマと鉢合わせしたら、どうすればいいのか。岩手大学農学部でクマを研究する山内貴義准教授と、群馬県奥利根で40年にわたりクマを追ってきたベテラン猟師の高柳盛芳さんに聞いた。(風来堂 稲葉美映子)
今年のクマは異常
こそ泥から凶悪犯に進化している
家の中や学校、スーパー、銀行など、“日常の場”にクマが入り込むという、かつてない事例が相次いで報じられている。
岩手県北上市和賀町では自宅で殺害された女性の遺体が見つかり、山形県南陽市の小学校そして福島県南会津町の老人ホームでは、ガラスを割って突入。岩手県花巻市では保育園の入り口で昼寝中の園児らが影響を受け、岩手県花巻市のスーパーではバックヤードへの侵入も起きている。
「今年のクマは異常。こそ泥から凶悪犯に進化している」――岩手大学農学部でクマを研究する山内貴義准教授の言葉が、現実の変貌(へんぼう)を端的に表している。
近年のクマ出没の特徴を語るうえで、避けて通れないのが「アーバンベア」という存在だ。もはや山中の動物ではなく、人間社会のすぐ隣、というよりはすでに“内部”に入り込み始めている。
山内准教授はこう分析する。
「ツキノワグマの個体数自体は、全国的に見れば一様に増えているわけではありません。しかし最近は、“出てくる数”が圧倒的に多い。例年なら、山に餌のない夏に見られるクマの出没が、今年は春先から始まっていました。これが非常に特徴的ですね」
人とクマのパワーバランスが
完全に逆転した地域も
そもそも、里にクマが出ること自体は珍しいことではなかった。昔から畑の作物を荒らしたり、納屋に忍び込んだりといった被害は各地で報告されている。だが近年のクマは、明らかに性質が異なる。人の生活圏に現れる頻度が増えただけでなく、滞在時間も長くなり、時には住宅地や街中を堂々と歩き回る。
その背景には、いくつかの要因が重なっている。
例えば、山に十分な餌がないこと。ブナの実が凶作になると、クマは生きるために人里に下りてきて餌を探す。農作物や生ごみをあさり、「人のそばには餌がある」「人間社会は危険ではない」と学習してしまうのだ。
加えて、過疎化や耕作放棄による「里山の崩壊」にも目を向けたい。
かつて人とクマの生息域を隔てていた「緩衝地帯」としての里山は、いまやその機能を失いつつある。人口減少と高齢化で手入れが行き届かず、ヤブ化した土地が山と地続きになり、クマが人里まで容易に下りてこられるようになっているのだ。
「地方では人間の活力そのものが弱まり、野生動物がどんどん出やすい環境になっています。そうした長期的な人口減少の影響が、クマの行動をより大胆に変えているのでしょう。地域によっては、人とクマのパワーバランスが完全に逆転してしまっているところもあります」(山内准教授)
取手に前脚をかけて
そっと開けて静かに入る
前脚で扉をそっと開けて入り、冷蔵庫の米を食い荒らす――。
以前は、開け放たれた納屋や家屋に偶然入り込む程度だったが、今は人の存在を知りながらも食料を求めて堂々と侵入してくる。屋内で人間と鉢合わせても逃げなかったりと、かつてなら考えられなかったような“大胆なクマ”が、今年は各地で相次いでいる。
さらに驚くのは、その知能の高さだ。







