ツキノワグマ写真はイメージです Photo:PIXTA

2025年、日本各地でクマによる被害が深刻化している。すでに死者は13人に上り、被害件数・死亡者数ともに過去最悪のペースだ。住宅地や市街地への出没が相次ぎ、自宅内や露天風呂で襲われる事例も発生。「今年のクマは異常だ」と専門家も警鐘を鳴らす。なぜクマは建物に侵入してくるのか、その意外な生態に迫る。(風来堂 稲葉美映子)

「今年のクマは異常」
自宅内や露天風呂でもクマに襲われる

 東北地方はもともとクマの生息地が広く、とくに岩手県は古くから出没件数が多い地域として知られてきた。特に岩手県北上市では、自宅内や露天風呂、山中などで人が襲われ、3人が死亡している。なかには、遺体の損傷が激しく、頭部と胴体が離れていたケースもあった。

「今年のクマは異常。今までとは考えられないような“一線を越えた”クマが増えている」

 そう話すのは、岩手大学農学部でクマを研究する山内貴義准教授だ。いま、何がクマを“凶暴化”させているのだろうか。

「里に下りれば食べ物が得られる」
成功体験が子グマに受け継がれる

 山内准教授によると、ツキノワグマの個体数そのものは一様に増えているわけではないという。にもかかわらず、出没件数や人身被害が増加しているのは「人慣れ」が進んでいるからだと話す。

「クマは本来、非常に警戒心が強く人を避ける動物です。しかし近年では里に出る期間が長くなり、人間社会を“危険ではない場所”と認識している個体が増えています」

 その背景の一つには、山に十分な餌がないことがある。ブナなどの木の実のなりが悪い年は、クマは山に留まることができず、人里へ下りてくる。そして、農作物をはじめ生ごみや米、ペットフードなどを見つけて食べるうちに、「人間のそばには食料がある」と学習してしまうというのだ。

「一度、『里に下りれば食べ物が得られる』と覚えたクマは、翌年以降も迷わず同じ場所に現れます。こうした成功体験が子に受け継がれていくんです」(山内准教授)

狙われた柿人里の柿の木も狙われるという 撮影:風来堂