「今日駆除したクマは7歳で、体重は100kgくらいあったな。今、解体中だよ!」と、まるで日課を報告するかのような口調だ。電話の向こうから聞こえる声は、淡々としていた。

罠今秋は同じ罠に何頭もかかっているとか。取材時も数時間前に一頭が駆除された直後だった 撮影:風来堂
センサーみなかみ町では、箱罠に動物が入るとセンサーが作動し、猟友会員のスマートフォンに即時に連絡が届く 撮影:風来堂

去年はほとんどの母グマが
一度に複数頭を産む珍しい年だった

 佐藤さんも異変を肌で感じている。

「去年は山の実りがとても良くて、クマは全然里に出てこなかったんです。栄養状態も良好で、ほとんどの母グマが、一度に複数頭を産むという珍しい年だったと地元の猟師が言っていました」

「一転、今年はブナの実が大凶作。山を歩いていても、ヤマブドウなんかも全然ないんです。その少ない餌を野生動物同士で奪い合うような状況になっています。だから親グマも子グマも餌がなく、山から下りざるを得ない。今起きていることは、ある意味自然なことですよね」と佐藤さん。

 餌の確保が難しい中で、親子グマも人里へと下りてきているという状況も見えてきた。実際、秋田県東成瀬村で4人が相次いで襲われた事故をはじめ、子連れのクマによる被害も相次いでいる。

 だが、この「異常」に見える出没も、山に生きるものからすれば、餌を求める自然な反応にすぎないのかもしれない。

クマに先に気づかせることが
最大の防御になる

 クマは本来、人を恐れる臆病な動物である。人間の気配を察知すれば、たいていは自ら距離を取って山へ戻っていく。

 その意味で、モリさんの言う爆竹も、佐藤さんのすすめる鈴も、目的は同じだ。人の存在を早めに知らせ、クマに「ここは危険だ」と判断させることにある。

 問題は、互いにその存在に気づかず、至近距離で鉢合わせるケースだ。そうした状況を避けるために、音で存在を知らせて距離を保つことが最重要といえる。

 そして最後にモリさんはこう言った。

「究極のクマ避け術? そんなもん簡単だよ。もうクマが出てる山には行くな。それがベストだよ」

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