量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている。
そんな今だからこそ、量子コンピュータについて知ることには大きな意味がある。単なる専門技術ではなく、これからの世界を理解し、自らの立場でどう関わるかを考えるための「新しい教養」だ。
近日発売の『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。今回はいま大注目の量子銘柄株についてを抜粋してお届けする。
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乱高下する量子銘柄の株価
グーグルやIBMといった量子関連企業の株価も、量子関係のニュースに敏感に反応して乱高下している。
グーグルが2024年12月に発表した新たなチップ「ウィロー(Willow)」は100量子ビットを超え、量子エラー訂正の実証実験にも成功した。
この結果から、大規模な量子コンピュータの実現に期待が膨らみ、2024年末には一斉に量子コンピュータ関連の株価が大幅に上昇している。
実は、このグーグルの成果は2024年8月の時点で、すでに研究者の間では広く知られていた。
というのも、同月に論文がプレプリントサーバー(研究者が論文を公開前にアップロードするオープンなプラットフォーム)に投稿されていたためである。
その後、数ヶ月の査読を経て論文誌に掲載され、十二月にグーグルが公式発表を行った段階で、ようやく市場が反応を示した。
この時間差が、研究者の目線から見ると面白い。
NVIDIAのCEOが語った「展望」
しかし、2025年1月には、NVIDIAのCEOジェンスン・フアンがあるイベントにて
「実用的な量子コンピュータの実現にはまだ20年くらい必要」
と語ったことをきっかけに、ディー・ウェイブ社やイオンキュー社など量子関連企業の株価が40パーセントを超える暴落を見せた。
2024年末に株価が回復をしてきた矢先のことである。
ただし、彼の発言をよく調べてみると、むしろ量子コンピュータには期待を寄せていることがわかる。
そのうえで、量子コンピュータの性能を最大限に引き出すために必要な「優れた古典コンピュータ」を提供する目的で、NVIDIAは量子コンピュータ企業との協業を開始しているという内容だった。
量子株価が大復活
あるワークショップでこの件について質問された際、私はこう答えた。
「量子コンピュータの実現はいまも昔も、まだまだ地道な研究開発が必要です。これは分野の人なら誰でも知っているので、こういった一時の悲観的な見方はすぐに落ち着くでしょう」
実際、そのすぐ後に株価は20パーセントほど回復し、元の水準に近づいていた。
この影響の大きさを考慮してか、2025年3月にジェンスン・フアンは、「私の見解は間違っていた」と発言を訂正している。
(本稿は『教養としての量子コンピュータ』から一部抜粋・編集したものです。)





