「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。

「インド製造業」が“異次元の成長”を遂げた意外な理由とは?Photo: Adobe Stock

自動車も鉄鋼も、かつては失敗に終わった

「インドは製造には適さない」そんな声を耳にすることがあります。

 その背景には、「個人主義が色濃く、チームで協力する文化が育ちにくい」「教育が行き届いておらず、熟練工が育ちにくい」「電力や物流といったインフラが不十分で、生産が安定しない」といった指摘があります。

 実際、かつてのインドでは、輸入代替を目的として自動車や鉄鋼など、さまざまな製品を国内で製造しようと試みました。しかし、未整備だったインフラや労働者のスキル不足により、これらの事業の多くは十分な成果を上げられませんでした。

玩具やジェネリック医薬品から社会基盤を築いた

 その後、インドは戦略の方向転換に踏み切ります。

 自国の強みを生かせる玩具やジェネリック医薬品といった比較的難易度の低いローテク産業、さらにはソフトウェア産業に注力しました。

 この選択が功を奏し、産業が成長する中で、電力・物流・人材・IT基盤といった製造業に不可欠な社会インフラの整備が急速に進み、製造業全体の成長を支える土台が築かれていったのです。

ハイテク産業の開花と、構造的成長へ

 こうして整えられた社会基盤を活用するかたちで、インドではその後EVや医療機器、航空機部品などのハイテク産業が次々と立ち上がりました。

 製造業のデジタル化も一層加速し、国家主導で育成されたソフトウェア産業出身のIT人材が、その成長を支える中核的な存在となっています。

 このように、製品や技術といった表面的な要素だけでなく、人材・制度・インフラといった多層的なレイヤーを意識することが重要です。

 環境そのものを設計するという発想こそ、モノづくりの競争力を左右する新しい戦略の論点と言えるでしょう。

 こうしたレイヤー思考に基づく戦略の立案と実行について、本連載では、これからもお伝えしていきます。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。