スローライフやミニマリズムを賛美する「脱成長」論を検証してみた写真はイメージです Photo:PIXTA

「成長を目指す必要はない」「人間らしい生活を取り戻そう」――。耳触りの良い「脱成長」論や「スローライフ」は、本当に仕事や人生において有効なのか?根拠のない偽りの論理にとらわれることへ警鐘を鳴らす人気サイエンスジャーナリストが、膨大な量のデータの検証を通して、成長を止めることの危険性を明らかにする。※本稿は、サイエンスジャーナリストの鈴木 祐『社会は、静かにあなたを「呪う」 思考と感情を侵食する“見えない力”の正体』(小学館クリエイティブ)の一部を抜粋・編集したものです。

フランスの経済学者が提唱した
経済成長主義批判とは?

「これ以上、経済成長を目指す必要はない」

「成長よりも大事にすべきことがある」

 近年、こんな言葉を耳にすることが増えた。俗に“脱成長”と呼ばれる考え方で、これまで当然とされてきた「成長=善」という前提を疑い、経済の拡大よりも人間らしい生き方を模索するのが特徴だ。その支持者は多く、さまざまな人物が似たような発言をしている。

「大量生産、大量消費、経済成長が第一でいいのか。欲張りな資本主義ではなく、心豊かな成熟社会に転換するべきだ」

「日本はどうするべきか。豊かさの指標をGDPに求め、米国を追いかけた経済は疲弊し、人心さえも蝕む」

 ほとんどの論者は、資本主義や消費社会をやり玉にあげ、成長のスピードを下げて穏やかに暮らすか、完全に成長を止めて現状維持で生きるように説く。なかには、もはや日本の成長は終わったと断定し、「みんな平等に、緩やかに貧しくなっていけばいい」と主張する者もいるほどだ。