そこでまず役に立つのが、「成長会計」の考え方だ。

 これは経済が成長する理由を「人」「モノ」「技術(知恵)」の3つに分けてとらえたモデルで、そのなかでもインパクトが大きいのは「生産性の向上」だ。新技術の導入や無駄な作業の削減などを行い、それまでと同じ労力や時間でより多くの価値を生み出せたときに、GDPの成長率は大きく上がる。

 そう言われると、大企業や政府などが行う設備投資や、革新的な製品やサービスの開発といった、派手な変化をイメージするかもしれないが、ここで最も重要なのは、「生産性の向上」のなかには、多くの人々が日々の作業で編み出した小さなアイデアも含まれる、という点だ。

●いつもの書類作りをAIで効率化したら、年間にして20時間以上の余力が生まれた。

●商品の陳列を変えて手に取りやすくしたら、顧客に喜ばれた。

●親しみやすいPOPで売り物の魅力を伝えたら、売り上げが2%伸びた。

●動画のサムネイルを修正したら、いつもより広告収入が増えた。

 どれも小さな改善にしか見えないかもしれないが、少しでも生産性の役に立ったなら、それはたとえ個人レベルでもGDPの一部にカウントされる。そして、積もった塵はいずれ山となり、経済全体を押し上げる。手間を減らしたい。少しでも成長したい、もっと楽しく生きたい。そんな小さな欲求をもとに、私たちは日々ささやかな改善を繰り返し、気づかぬうちに国全体を成長させている。言い換えれば、経済成長とは、私たち全員の“工夫”の総和なのだ。

人間生来の“工夫”を喜ぶ機能が
行動力と生産性の向上に関わる

 経済成長の内実がわかったところで、また別の疑問について考えてみよう。そもそも多くの人はなぜ、毎日のように小さな“工夫”を繰り返すのだろうか。

 人に褒められたいからか、仕事の手間を避けたいからか、あるいは会社に指示されたからだけなのか。たしかに、どの理由も私たちが行動を起こすきっかけになりうるし、一定の説得力もある。