しかし、なかでもとりわけ強い動機がひとつ存在する。それは、「人間はもともと“工夫”を好む生き物だから」というものだ。人間の脳には、生まれつき“工夫”を喜ぶ機能が備わり、それを私たちは行動の原動力にしている。

 その事実を示すのが、ハーバード大学による研究だ。研究チームは238人のビジネスパーソンから約1万2000件もの作業日誌を集め、これをもとに「仕事への熱意が高い人は何が違うのか」とのテーマで分析を行った。結果を簡単にまとめよう。

●大半の参加者は、“小さな工夫”に成功したときに、最もモチベーションが改善した。

●“小さな工夫”を行う量が多い者ほど、仕事の満足感と生産性が高かった。

 参加者が行った“小さな工夫”とは、たとえば「メール返信を自動化した」「資料を新たなアプリで作った」「表計算ソフトのショートカットを覚えた」といったことだ。

 誰もが日常的に行うような改善ばかりで、特に高度な技術や創造性を要するものは少ない。

 興味深いのは、こうした小さな工夫によって生まれる達成感が、「長期プロジェクトの達成」や「上級職への昇進」といった大きな成功と比べても遜色なかったところだ。いかに小さな工夫でも、それが何かを改善した感覚さえ与えてくれれば、私たちは大きな満足を得られるらしい。

多くの米企業が導入した
改善活動が与えるインパクトとは

 似た知見を示した研究は多く、小さな工夫の積み重ねを意識することで、アルコール依存症の改善率が上がった例や、工場全体のコストが75%下がった報告などが存在する。

 特に日本人になじみ深いのはトヨタの事例で、同社には昔から「カイゼン」と呼ばれる思想があり、小さな工夫や改良を毎日繰り返すことで、昨日より今日、今日より明日と少しずつ前に進むように従業員を指導している。その効果は実証研究でも定評があり、経営史家のボブ・エミリアーニによれば、「カイゼン」を導入した米企業の多くが、生産性の向上や競争力の強化に成功したという。わずかな改善が私たちの生産性に与えるインパクトは、想像以上に大きいようだ。