多様な学問が交差する
「知のインターセクション」
――こうした、図書館情報学を専門的に学ぶことのできる大学は、全国にどのくらいあるのでしょうか。
多くの大学では、図書館情報学の専門教員が在籍し、さまざまな学部の学生が履修できる「司書課程」として授業が設置されています。
しかし、この分野を授業だけでなく、「専門課程」としてより深い研究・教育を行っている大学はそれほど多くありません。例えば、筑波大学、東京大学、京都大学、中央大学、同志社大学、そして私たちの慶應義塾大学などです。特に、大学院レベルで専門的な研究に力を入れているところは、例えば関東では、筑波大学、東京大学、慶應義塾大学などに絞られてきます。
――慶應では、文学部の中に「図書館・情報学専攻」がありますね。
はい。一見すると、文学部とは関係ないように見えそうなので、不思議に思われるかもしれませんね。
――ほかの大学では違うのですか。
東京大学では教育学部の中にあります。筑波大学は、図書館情報大学という独立した大学が筑波大学と統合した経緯もあり、情報学群、つまりコンピューターサイエンスに近い領域の中にあります。そういう意味では、文学部の中にあるというのは非常にユニークだと思います。
しかし、考えてみてください。今、デジタルアーカイブという取り組みが各分野で進んでいます。歴史的な文書や美術品など、さまざまな文化史料を、いかにして知識として組織化し、誰もが利用できるように見せていくか。その対象となる史料のほとんどは、人文科学や社会科学、つまり文学部が扱う学問領域のものなんです。
人文系の「知の集積地」である文学部にいることで、個人や組織で生産された経験や情報といった知を、どう構造化し、未来に継承していくかという課題に、より深く取り組むことができる。文学部の中にいることのメリットは、今後ますます大きくなっていくと確信しています。
――18歳ぐらいの方が、図書館の重要性を感じて入学してくるというのは、何だか頼もしいですね。
もちろん、卒業生全員が図書館員になるわけではありませんが、中には、著名な大学の文学部を蹴ってまで、どうしてもこの分野を学びたいと強い意志を持って入学してくれる学生もいますよ。
――学部だけでなく、大学院もありますが、こちらは、図書館関係者だけでなくとも研究できるのでしょうか。
私たち慶應義塾大学の大学院には、大きく分けて2つのプログラムがあります。1つは、昼間に開講している修士課程「図書館・情報学専攻 図書館・情報学分野」です。
もう1つが、社会人向けのリカレント教育を目的とした「情報資源管理分野」のプログラムです。こちらは20年ほどの歴史があります。平日の夜間と土曜日に開講しており、図書館関係者だけでなく、そうした領域に強い関心を持っている方や、IT業界や出版業界など、広く情報関連の仕事に従事している方が、より専門的・現代的な知識を学ぶために在籍しています。
――なるほど、IT業界の方もいらっしゃるのですね。データサイエンスやコンピュータサイエンスの領域でも役立つということでしょうか。
そうですね。私たちの学問は、いわゆるデータサイエンスやコンピュータサイエンスとは少し違うものの、情報流通や情報管理、デジタルアーカイブといった領域に関心のある方、「情報を組織化すること」をあらためて体系的に学びたい方には、きっと多くの発見があるはずです。
――図書館情報学の最大の魅力は何でしょうか。
そうですね、なかなか一言で言い表すのは難しいですが、あえて言えば、「多様な知の交差点(インターセクション)」であることだと思います。
図書館情報学には、それ自体が持つ中核的な理論や技術もありますが、魅力は当然、それだけではありません。多様な背景を持つ人々が、「知識」「情報」「図書館」「読書」といった共通の関心事を接点として交わる、学際的なフィールド。それがとてもおもしろいんですよ。
私のように社会学的な視点から組織の知識マネジメントに関心を持つ者もいれば、歴史学の視点から過去の情報流通を研究する者、情報科学の視点から検索技術を開発する者もいます。実際に、大学院にもさまざまな学部出身の学生が集まってきます。
情報が氾濫し、その価値が見えにくくなっている現代だからこそ、情報から人間と社会の関係を深く見つめ直すこの学問の重要性は、ますます高まっていくはずです。







