『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』(ロジャー・ニーボン著/御立英史訳、ダイヤモンド社)は、あらゆる分野で「一流」へと至るプロセスを体系的に描き出した一冊です。どんな分野であれ、とある9つのプロセスをたどることで、誰だって一流になれる――医者やパイロット、外科医など30名を超える一流への取材・調査を重ねて、その普遍的な過程を明らかにしています。今回は「部下を伸ばす上司」と「潰す上司」のたった一つの違いについて『EXPERT』の内容を元にお届けします。

部下 上司Photo: Adobe Stock

部下が伸びる瞬間

忙しいビジネスの現場では、つい部下に自分のやり方を押しつけてしまったり、「なぜできないのか」と強い口調になってしまったりする場面が多いですが、そうした指導は部下の自立を妨げ、結果的に組織にとっても大きな損失につながることがあるのです。

ロンドンに本部を置く世界有数の理工系名門大学の一つ、インペリアル・カレッジ・ロンドンの教授で『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』著者のロジャー氏は、本書の中で次のように指摘しています。

教師はいつまでも教え続けることはできず、どこかの時点で手放さなければならない。いつまでもそばにいたら相手のためにならない。
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.374より

これは、職場における上司と部下の関係にもそのまま当てはまる内容です。指示を出しすぎるほど、部下は「考える機会」を奪われてしまい、「指示待ち」から抜け出せなくなるからです。

できる上司は「小さな失敗」をあえて経験させる

上司の役割は、ミスを未然に防ぎ続けることではありません。部下に“小さな失敗”を経験させ、その失敗から学ぶ力を引き出すことが、結果として成長への最短距離になるのです。

学習者に失敗する機会を与え、失敗の責任を取る機会を与えなければならない。そのようにして学習者は学んでいく。
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.374より

たとえば、商談準備をすべて上司が整えてしまえば、部下は永遠に新人のままです。「自分で考え、やってみて、失敗して、そこから修正する」という一連の経験こそが、仕事の本質的な学びに直結していくからです。

距離の取り方こそ、上司の腕の見せどころ

優秀な上司ほど、「そばにいる時間」と「身を引く時間」のバランスを理解しています。部下が成長のチャンスを掴む寸前に、そっと背中を押し、あとは自ら歩けるよう静かに見守る姿勢が、部下の主体性を育てていきます。

「伝える」というのは、必要なときにそばにいて、そうでないときには身を引くことなのである。
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.374より

早すぎても遅すぎてもいけない、その絶妙な距離感を保つことこそが、信頼関係と成長の両立を実現する鍵になるのです。

自分が手を動かしたほうが早いと分かっていても、あえて任せること。その決断こそが、部下が一人前になるためには欠かせないステップであり、長期的にみたら上司自身の仕事をより進めやすくするきっかけにもなります。

当たり前のことですが、こうした意識を持つことで、部下が伸びるかどうかは大きく変わってくるのです。上司が一歩身を引いたその瞬間にこそ、部下は自分の力で前へ進み始めるのです。

(本記事は、ロジャー・ニーボン著『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』を元にした記事です。)