日本の小学生は
試行錯誤する力が弱い
以上が僕の仮説だが、その傍証となりそうなデータも紹介したい。「全国学力・学習状況調査」(以下、全国学力調査)だ。
これは、文部科学省が年1回実施する実力テストのようなものだが、その問題構成はTIMSSに似ていて、次のようになっている。小学校算数の正答率とともに見てみよう[国立教育政策研究所「令和7年度 全国学力・学習状況調査 調査結果資料」]。
正答率
選択式 67.4%
短答式 64.2%
記述式 35.2%
記述式の問題の正答率が低い。記述式の問題とは、解くのに思考力・判断力・表現力を必要とする問題であり、質的にはTIMSSの「推論」の問題に近いと考えられる。
きっと日本の小学生は「ああでもない・こうでもない」と粘り強く考えて解く、算数力を必要とするタイプの問題に弱いのだろう。
子どもの身になってイメージすると、だいたい次のような感じではないだろうか。
TIMSSであれ全国学力調査であれ、算数の学力テストというのは、いくつかの小問で構成される問題から成ることが多い。そのなかで、たいていは最後の小問に「推論」を必要とする「記述式」の難問がおかれる。
『本物の算数力の育て方 子どもが熱中する「りんご塾」の教育法』(田邉 亨、講談社)
日本の公教育は整っているし、教員も熱心だから、子どもたちは授業でひと通りのことは習っている。だから教えてもらった知識を使えば解ける問題や、選択式の問題は大体できるし、いくつかの知識を組み合わせればできる短答式の応用問題でも間違えることは少ない。
結果、点の“取りこぼし”は少なく、その時点で「まずまず」の総合得点はとることができる。
問題はそのあとだ。最後には推論が必要な難問が待っている。けっこうな割合の日本の小学生が、その難問を解けないままテストを終える。途中までは順調に進むことができたのに、ラスボスには歯が立たなかったわけだから、結果として点がとれても挫折感や不全感が残る。
そのせいで、「算数はそこそこできる。でも、そこまで楽しくもなければ、得意とも感じない」というふうになり、全体の総合順位でも「銅メダル」レベルを突破できない――そういうことではないだろうか。







