「君のような青年がいつまでも仕事につかないでいるのはよくない。このへんで一時数学の勉強をやめて何か仕事についたらどうかね」
すると青年は次のようにいいました。
「先生、これからも続けて数学を教えてください。今日からは先生が定理を1つ教えてくれるごとに、私が先生へ3オボロスのお金を払いますから」
ちなみに3オボロスは、貧者の数日の生活費が賄える額だったというから、けっこういい待遇だったのかもしれない[イアンブリコス『ピタゴラス的生き方』27頁訳注]。こうして青年は数学の面白さに目覚めたのだった。
算数沼にハマらせる
「検定試験」という仕組み
昔々のことだから、この逸話が事実かどうかはわからない。しかし、仮に事実だとしたら、ピタゴラスはいまで言うキャッシュバック制度でうまく塾生を勧誘したことになる。
もちろん、「お金で釣るのはいかがなものか」といった批判はできるし、(きっかけにはなっているが)その後も長く数学を学び続けるインセンティブになったかどうか、まではわからない。
だが、こんなふうに生徒を算数の“沼”にハマらせることができる「仕組み」があると心強いのは確かだ。
そのような仕組みとしてぜひ活用して欲しいのが、検定試験だ。
受けたことのある人も多いと思うが、世のなかには実用英語技能検定(英検)や日本漢字能力検定(漢検)など、各種団体が定期的に開催する検定試験がたくさんある。それらの試験は、どれも共通して次のような特長をそなえている。
・いろいろな種類があり、級などの段階が設けられていて頻繁に受けられる
・好きなペースで何度でもチャレンジできる
・合格すれば認定証などの賞状がもらえる
・不合格でもショックは小さく、人生への影響も少ない
これらをうまく利用して、子どもに小さな達成感を積み重ねてもらう。そして自信をつけさせ、より難しいものにチャレンジする意欲を持ってもらうのが狙いだ。
「りんご塾」では、算数検定、算数・数学思考力検定(以下、思考力検定)など、いろいろな検定を利用して学習を進めているが、ここでは塾の例をもとに、具体的に説明する。







