会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊『[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。
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社員の「基礎力」を高める
「思考力」と「実行力」
経営者をはじめ働く人に必要な「基礎力」というものがありますが、それは「思考力」と「実行力」です。
考える力と、その考えたことを実行する力です。
世の中は複雑系です。一方、便利な時代はあまり考えなくても済む時代です。どこかに電車で行くにしても、ピッといわせて自動改札機を入場し、ピッといわせて出るだけです。
昔なら、例えば東京や大阪なら複雑な路線図の中から行き先の駅を見つけ出し、その料金を確かめ、お金を券売機に入れ、場合によってはお釣りを確認し、切符をなくさないようにしまうという少し面倒なプロセスがありましたが、今はピッといわせてピッと出るだけです。
便利な時代は頭を使わなくなっていますが、そのシステム自体はとても複雑なものです。
表面的な日常生活はとても便利になっていますが、世の中自体はどんどん複雑化しています。複雑な時代を複雑なままに読み解き、それに対応するための方向づけなどの戦略を考えるのが経営の仕事です。
現場での仕事も、お客さまへの対応、製造など本質的なところではどんどん複雑化しています。それを理解し、対応する思考力が必要なのです。
そして、それを実行する能力も必要です。考えているだけでは何も起こりません。考えたことを実行する能力が求められます。「思考力」と「実行力」を高める方法については、また改めて説明します。
マネジメントチームを育成する
先にも少し触れましたが、そこそこ成長した企業が成長を止める、あるいは成長が鈍化する要因の一つとして、「マネジメントチーム」の欠落をドラッカー先生は指摘しています。
カリスマ経営者がグイグイ引っ張って経営しても、ある程度までは大きくすることができます。
しかし、売上高が数十億円から100億円程度を超える規模になると、数人程度でもいいのでマネジメントチームが必要になります。
カリスマ経営者だけでは、目が行き届かなくなるのです。
マネジメントチームには、1.企業の方向づけ、2.資源の最適配分、3.人を動かす、の経営をサポートしてもらわなければなりません。特に、方向づけは、衆知を集めて考えたほうが精度が上がります。
そして、マネジメントチームには、自社や「経営者」の考え方もきちんと理解してもらわなければなりません。
さらには、ある程度の社歴のある会社では、自社の歴史を学んでもらうことも大切です。
そのような、考え方や歴史の共通認識を持ったうえで、方向づけ、資源の最適配分、人を動かすという、経営をチームで考えるようにするのです。
そのことは、カリスマ経営者の承継にも大いに役立つことは言うまでもありません。
(本稿は『[増補改訂版]経営者の教科書 成功するリーダーになるための考え方と行動』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。




