会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊『[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。
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「徹底」がキーワード
重要なポイントは、ここまで何度か述べてきたように「徹底」です。現場では「徹底」がとても重要です。
徹底すれば、現在の市場でももっと深掘りできます。もっとも、自社商品がすでに市場の60%ほどのシェアを持っていて、これ以上になると独占禁止法に触れるというのであれば、深掘りしようがないかもしれません。
しかし、それでも商品の工夫やコスト削減はできるはずです。そして、ほとんどの会社は、それほどのシェアはありません。
だから、どんな場合でも「徹底」する必要があります。
本当に、この「徹底」というのはビジネスを成功させるうえでの非常に重要なキーワードなのです(ジネスだけでなく、人生の成功のためのキーワードでもあると私は思っています)。
なぜセブン-イレブンと他のコンビニでは、
2割も売上が違うのか?
この「徹底」の説明を講演などでするとき、私はよくセブン-イレブンを例に挙げます。外資からの買収提案を受けるなどして、経営が大きく変わる可能性がありますが、その徹底ぶりは見習う点も少なくありません。
セブン-イレブンは国内では、2万店舗を超えるコンビニエンスストアチェーンです。セブン-イレブンは、1日1店舗当たり約70万円の売上をあげています。
一方、ファミリーマートやローソンなど2位以下のコンビニエンスストアはというと、大体50万円台半ばです。つまり、毎日2割も売上が違っているわけです。
セブン-イレブンとその他のチェーンと、何が違うのでしょうか。
実は「徹底」の差だと私は思っています。セブン&アイ・ホールディングス元会長の鈴木敏文氏が書かれた『商売の原点』(講談社)の冒頭は「基本四原則を徹底する」という見出しでこう始まります。
「品ぞろえ、鮮度管理、クリンリネス(清潔)、フレンドリーサービス――これが私どもの商売における基本四原則です。(中略)こうした基本的なことができていないのに、他のことをやろうとしても、お客様に店にきてもらえるわけがありません。」
そして、いかにこの四原則を徹底することが大切であるかが語られるのです。
この基本四原則は、実はコンビニ業界で成功するためのキーファクターであり、他の会社も百も千も承知しているはずです。そして、どのコンビニチェーンもセブン-イレブンと同じようなことをやっています。目隠しをしたままコンビニエンスストアに入って、どこの店だか言い当てられる人などそうはいないはずです。
それなのに、売り上げは毎日2割の違いがある。では何が違うのかと言うと、「徹底」の度合いなのです。
「同じこと」と「同じようなこと」では、
まったく違う
同じようなことは他の店もやっているかもしれませんが、「同じようなこと」と「同じこと」は違います。この「ような」の3文字が入るか入らないかの差がすごく大きいのです。それが徹底の差なのです。
先日、お盆近くの頃に、当社の近くのセブン-イレブンの店長が、当社を訪ねてきたそうです。当社の夏季休暇の期間を聞いて帰ったと当社のスタッフは言っていました。お弁当などの数量や品ぞろえをどうするかを決めるためでしょう。当社の周りには他のコンビニチェーンの店もいくつかありますが、それらの店は聞きにこなかったそうです。「一歩の踏み込み」が違うのです。
郊外の店なら、学校の行事の情報も収集していると言います。運動会があれば飲み物が大量に売れますし、学習参観があれば、お母さんが帰りに総菜を買っていく確率が上がります。
必要な商品をお客さまが求めているときに、それがあるかどうかが大事なのです。
コンビニエンスストアの場合、そのためには店長が、近隣の情報だとか、お天気の状況だとか、そういうものを見極めて発注できるかどうかにかかっています。
また、逆に、過剰な在庫を抱えるのは収益を圧迫します。おそらくその能力が、セブン-イレブンの店長と他のチェーンの店長とは平均値で違うのだと思います。
もちろん、他のチェーンの店長の中にも優れた店長はいるでしょう。しかし、セブン-イレブンは全体的に優れているから、1日の売り上げが1店舗ずつ毎日2割も違うという結果になるのです。
そしてそれは、繰り返しになりますが、「同じようなこと」と「同じこと」が違うからであり、徹底できるかどうかの差なのです。ドラッカー先生が「既存の事業の業績向上」と言ったのは、それなのです。
新しいことに挑戦しなければならない、明日のために投資しなければいけないのも確かだけれど、まずは今の事業の深掘りをしなければなりません。それができないで機会を追求しても、ましてや新規事業を始めても、うまくいかない。ベースのところでの基本姿勢が、やはり重要だからです。
そして、現在の事業の徹底や深掘りも大切な「挑戦」だということです。
(本稿は『[増補改訂版]経営者の教科書 成功するリーダーになるための考え方と行動』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。




