会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。

なぜ経営には利益が必要なのか? 利益の持つ5つの意味を知っていますかPhoto: Adobe Stock

利益の経営哲学的な意味とは

 そもそもの経営について、普段何気なく使っている言葉でも、深く考えておかなければならないものがあります。

 私は、企業研修などで、「利益とは何か」ということをよくグループディスカッションのテーマにします。

 様々な答えが出てきます。「売上高から費用を引いたもの」。もちろんそれも間違いではありません。

 しかし、経営者は、利益の経営哲学的意味をきちんと働く人たちに説明できなければなりません。もちろん、まず自分がそれを十分に理解していることが大切です。

手段としての利益の5つの意味

 一つは、利益はここまで何度も話してきた「良い仕事」の「結果」ですが、その「評価」や「尺度」でもあります。良い仕事をどこまで徹底してやっているかの評価や尺度です。それには「工夫」も含まれます(「良い仕事」の三つの定義を覚えていますか?)。

 さらには、「手段としての利益」があります。私は次の五つだと考えています。

 1.延命:不測の事態に備えるために利益の蓄積が必要です。一部はキャッシュで積んでおく必要があります。
 2.未来投資:後の項でも詳しく説明しますが、設備投資だけでなく、M&Aや優秀な人材を確保するなどには利益が必要です。
 3.働く人の待遇改善:利益なしには待遇改善はできません。
 4.株主への還元:配当や自社株買いを行うためには利益が必要です。
 5.社会への還元:税金などで社会に還元するのです。

 こうして考えると、利益は、働く人、会社、お客さま、株主、そして社会を良くするためのコストなのです。利益なくしては、誰も良くなりません。

 赤字は社会に損害を与える害悪です。

 経営者は適正な利益を出すことに、信念を持たなければならないのです。

(本稿は[増補改訂版]経営者の教科書 成功するリーダーになるための考え方と行動の一部を抜粋・編集したものです)

小宮一慶(こみや・かずよし)
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。