量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている。
そんな今だからこそ、量子コンピュータについて知ることには大きな意味がある。単なる専門技術ではなく、これからの世界を理解し、自らの立場でどう関わるかを考えるための「新しい教養」だ。
『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。今回はスーパーコンピュータの躍進について抜粋してお届けする。
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スパコン界隈への刺激
グーグルの量子超越の発表は、スーパーコンピュータ界隈も大きく刺激した。
これまで、古典コンピュータの頂点に君臨してきた最強の王者が、生まれたての量子コンピュータに勝負を挑まれているのである。
これまでの20量子ビット程度の量子コンピュータはノートパソコンでも簡単にシミュレーションできる。
しかし、50量子ビットを超えた規模になるとそうはいかない。
グーグルの発表以降、研究者たちはスーパーコンピュータの性能を試すために、「どれだけ高速に量子コンピュータの動きをシミュレーションできるか」を調べるようになった。
この流れは、シミュレーション技術の発展につながった。
中国の大躍進
スーパーコンピュータというと、これまでアメリカが圧倒的に強かった。
日本も「地球シミュレータ」や「富岳」を筆頭にスーパーコンピュータの開発実績を持っている。
しかし、ここ数年特にスーパーコンピュータの開発に勢いがあるのは中国だ。
2022年のスーパーコンピュータのランキングトップ500には、中国のスーパーコンピュータが173台もランクインしている。
これは、アメリカの127台を超え最多となっている。
スパコンの逆襲
そんななか、2021年に中国・清華大学らのチームが、エクサスケール(1秒間に100京回の計算を行う)級のスパコン「神威・太湖之光(Sunway TaihuLight)」を用いて、グーグルの量子コンピュータを304秒でシミュレーションできると発表した。
量子超越の発表以降、はじめてスーパーコンピュータが量子コンピュータと同等の時間で計算できた結果である。
この中国チームのアプローチは、先述のようにデータをすべて書き出してシミュレーションするのではなく、うまく分割し計算の順序を取り換えて最適化し、それらを4200万コアのプロセッサで並列計算するという物量的なものだ。
まさに、スーパーコンピュータからの逆襲といったところである。
(本稿は『教養としての量子コンピュータ』から一部抜粋・編集したものです。)





