伝えたいことが山ほどあるのに、話し終えた途端に相手の目が泳ぐ――そんな経験はないだろうか。すべて伝えれば、「結局なにが大事?」と言われてしまう。上司への報告で、いろいろ詰め込むほど、伝わりやすさは逆に落ちていく。抜群に仕事ができる人は、相手の関心を先に想像し、不要な情報を捨てて“たった一つ”に絞る。「印象と結果を変える伝え方の極意」を書籍『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』から一部抜粋して紹介する。
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抜群に仕事ができる人の「たった1つの習慣」とは?
いろいろと考えていて、伝えたいことがたくさんあるとき。そんなときにどう伝えるかで、相手に伝わるかが変わるだけではなく、相手が受ける印象が変わったり、仕事の結果が変わったりする。
ダメな人は「そのまま」伝える
伝えたいことがたくさんあるとき、伝えるのがダメな人は「そのまま」伝える。たとえば、次のような上司への報告のケースだ。
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今期、わたしたちのチームはこの数年間で一番に頑張った気がします。佐藤さんはいままでやってこなかった施策にも挑戦してくれました。渡辺さんは自分の持ち味を最大限に発揮してくれました。山本さんは自分の仕事だけではなく佐藤さんと渡辺さんのフォローまでしてくれました。リーダーのわたしとしては、チームメンバーに感謝しかありません。今期、この最高のチームができたのに、予算が少し未達に終わったことはリーダーとして悔しくてなりません。来期こそ、この最高のチームで、新規顧客を今年以上に開拓して予算を達成したいと思います。
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言葉としてなにか問題があるわけではない。しかし、恐らくは、伝えられた相手は集中力が続かないだろう。コミュニケーションにおいては、たくさん伝えればたくさん伝わるとは限らない。
むしろ、たくさん伝えると、なにが大事なのかを見極める情報処理の負荷が相手にかかってしまい、その負荷から相手は理解するのを諦めてしまい、なにも伝わらなくなることの方が多いだろう。
普通の人は「要約」して伝える
そこで、普通の人はその伝えたいたくさんのことを「要約」して伝える。たとえば、次のように。
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佐藤さん、渡辺さん、山本さん、そして、わたし、チーム全員でこの数年間で一番に頑張りました。しかし、予算は未達に終わり、リーダーとして悔しいです。来期こそ、新規顧客を今年以上に開拓して予算を達成します。
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こう要約して伝えられると、相手にしてみると、先ほどのように「そのまま」全てを伝えられるよりは情報処理の負荷はかからない。
なんとなく言いたいことを理解できそうだ。しかし、まだもっさりとした印象を受けてしまう。こう伝えられても、少しは短くなったが内容としてはまだいろいろと言われている感じで、まだ情報処理の負荷をいくらかは感じてしまう。結果として、これでもまだなにも伝わらないだろう。
抜群に仕事ができる人は「一つに絞る」
要約の問題点は、自分の伝えたいことありきな点だ。自分の伝えたいことがたくさんある。要約とは、それらを前提にして、全体を短く言語化する作業だ。しかし、相手は必ずしもその自分の伝えたいことの全てを聞きたいとは限らないのだ。
このため、抜群に仕事ができる人は、自分の伝えたいことの全体を要約して伝えるのではなく、全体の中から、相手が聞きたい点に「一つに絞って」伝える。
たとえば、相手の上司が最も興味関心があるのが、この伝え手がリーダーとして今回の予算未達をどう受け止めているかだったとする。そのときは、次のように伝える。
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予算は未達に終わり、リーダーとして悔しいです。
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これだけでよい。相手が最も聞きたいのはこの一点だからだ。
それにもかかわらず、最初に佐藤さんや渡辺さんや山本さんの話をされても、相手からしたらノイズでしかなく、聞く気が失せてしまうかもしれない。
もっと言うと、上司であれば、自分の責任の前に部下の話をしているので責任逃れをしているように誤解してしまうかもしれない。
また、もし相手の上司が最も興味関心があるのが、来期はどう挽回するかだとしたら、次のように伝える。
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来期こそ、新規顧客を今年以上に開拓して予算を達成します。
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これだけでよい。それにもかかわらず、最初にチームの頑張りや、リーダーとしての感情を吐露されてもノイズにしか感じないだろう。
相手がせっかちな上司であれば「大事なのは過去ではなく、次になにやるかだ」と話を途中で遮ってしまうかもしれない。
こうして、相手の聞きたいこと、すなわち、相手が最も興味関心があることを想像してそこに一つに絞って伝えることで、シンプルな1メッセージで伝えることができ、相手に伝わり、相手を動かし、結果も生まれていくのである。
1メッセージは、要約ではなく、絞ることで生まれる
1メッセージとは、自分の伝えたいことの全体の要約ではない。
1メッセージとは、相手が聞きたいことを考えて、それに関係ないことは捨てて、相手が最も興味関心があることだけに一つに絞った先に生まれる。
相手に伝わるようにするためには、相手に伝える量を増やすのではなく、相手のことを考える量を増やすのが一番の近道なのだ。
(本原稿は『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』を一部抜粋・加筆したものです)









