EVばかりで無音の街、BYD以外も多数

「中国で景気が低迷」「世界がインフレに進む中、中国はデフレに」といったニュースは本当なんだなあと実感した一方で、何より最も驚いたことがあります。街が静かなことです。クルマは多いのですが、無音で走っていきます。

 ガソリン車ではなくてEVなのでしょう。エンブレムを見ると、BYDか、見たこともないものばかりでした。なお、バイクも無音の電動ばかりでしたが、クラクションの音はやたらと大きく耳障りでした。

「デジタル主権」と「自動車主権」の現実

 さて、上海滞在リポートをお伝えしましたが、筆者は「中国はサイアクだ」などと伝えたいわけではありません。日本人の私にとっては不便なこともありましたが、むしろ中国の「主権確立」を見せつけられたと感じました。

 日本よりもキャッシュレス決済が進んでいるなど、中国は極めてデジタル化した社会です。中国独自のネットサービスやアプリは、米国発ビッグテックのサービスと同等のものが全てそろっていました。最近、耳目にするようになった「デジタル主権」を、少なくともサービスとしては確立している状況だと実感しました。

 自動車もそうです。かつて中国は独フォルクスワーゲンやトヨタ自動車、日産自動車、ホンダといった日本車ばかりだったと記憶しています。そうした状況は一変し、走っているのは中国EVメーカーばかりでした。

 今や、完成車の組み立てのみならず、充電システムはもちろん、車載用半導体も中国は製造しています。「自動車主権」もほぼ確立していると感じました。

米中首脳は摩擦しつつも対話、日本は?

 今回の滞在では、中国の基本戦略を身をもって感じることができました。国内市場では自国企業を徹底的に優先し、ITと自動車で主権を確立する。景気は不動産バブル崩壊で厳しいものの、欧米依存は避け、BRICSや一帯一路で中東やアジア諸国との結びつきを強める――。

 折しも11月24日、トランプ大統領と習近平国家主席が電話会談を行いました。トランプ氏は「米中関係は非常に強固だ」とSNSに投稿し、来年4月の訪中と習氏の国賓訪米を発表しています。米中は摩擦を抱えながらも首脳対話で関係を調整しています。

 日本では「中国を孤立させる好機」という意見もありますが、トランプ氏の気分次第で逆に「日本が孤立する」可能性すらあると私は思います。米中と今後どのように付き合って行くべきか、政治と経済の両面から深く考える必要があると思いました。

三木雄信プロフィール