使うか使わないかは料理人の腕次第で、うまく活かせば強力な武器になる。それなのに「使わない」というこだわりに縛られて、わざわざコストを上げ、利益率まで下げているようにしか思えない。

 だから僕は率直に、「逃げるなよ、ちゃんと向き合えよ」と伝えた。

うま味の正体をきちんと知る

 たしかに、うま味って単体では味を感じにくい。だから、入れすぎて舌がピリピリするような経験をすると「これが悪い」って思いがちなんだけど、それは単純に量の問題だ。

 本来は、ラーメン一杯に耳かき一杯くらいの味の素を入れれば、十分うまくなる。しかし現場ではその10倍以上を放り込んでる店もあるらしい。そうなれば、そりゃ「化調っぽい」と言われるのも無理はない。

 それにしても、うま味って本当に面白い構造をしている。そもそも「うま味の三要素」というものがあるのを知っているだろうか?

 グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸。この3つが、うま味を構成する主要成分だ。

 グルタミン酸は昆布のうま味として有名。そのほか、玉ねぎ、にんじん、セロリ、長ねぎ、トマトなんかに含まれている、いわば植物性のうま味だ。

 イノシン酸はかつお節や肉、魚に多くて、これは動物性。グアニル酸は干し椎茸とか、きのこ類に含まれている。

 この3つ、それぞれ単体でももちろんうま味は感じるが、もっと面白いのはこれらを組み合わせたとき。たとえば、昆布のグルタミン酸に、かつお節のイノシン酸を加えると、7~8倍のうま味として知覚されるというデータもある。これが、いわゆる〈うま味の相乗効果〉だ。

和食はうま味の設計だ

 たとえば味噌汁に、かつお節と昆布でとった出汁を使い、そこにあさりやしじみなどの貝類を入れると、コハク酸まで加わって、うま味の三重奏が完成する。これ、和食の世界では昔から当たり前のように使われてきたことであるが、改めて考えてみるとめちゃくちゃ合理的だ。

 すなわち、うま味っていうのは「構成」であって、「単体」で勝負するものではない。この視点を持てるかどうかで、味の素の使い方も大きく変わってくる。つまり他の基本味と合わせて、適切なバランスで使えば、味を底上げしてくれる非常に強力な助っ人になる。