堀江貴文
ホリエモンこと堀江貴文さんが自身初となる料理エッセイ本で「刑務所の食事は本当にまずいのか」を明かした。「味覚は環境で変わる」というワケとは。※本稿は、堀江貴文『僕が料理をする理由 ~AI時代を自由に生きる40の視点~』(オレンジページ)の一部を抜粋・編集したものです。
長野刑務所での食体験が教えてくれたこと
体験と味覚は、切り離せない。しかもそれは、ラグジュアリーな体験だけを指しているわけではない。
僕の場合、そう痛感したのは――長野刑務所にいたときだった。あの環境にいた頃、僕にとって食事は、数少ない楽しみのひとつだった。
酒を断ち、日々の労働と単調な生活の中で、体重はどんどん落ちていった。その反動だったのかもしれない。
どちらかというと甘いものが苦手だった僕が、甘く煮た煮豆や時々出されるぜんざいが楽しみになるようになった。さらにいえば、ずっと苦手だった納豆までも、完食するようになった。なんだかんだ、味覚が変わってしまったのである。
なかでも特別だったのが、祝日に出されるおやつ、「特食」だ。内容は、市販のスナック菓子やチョコレート、ゼリー、みかんなど。その日が近づくとソワソワしながら献立表を眺めるようになっていた。
特食として出されたチョコレートは、どこにでも売っているような、ごく普通の市販のものだ。でも、麦飯と地味なおかずの繰り返しの中で、突然現れた〈甘いもの〉が、その味を圧倒的に引き立てていた。
たぶん、あれは人生で一番「うまい」と感じたチョコレートかもしれない。
味覚は、環境に支配される。「きな粉ごはん」もそうだ。長野刑務所では、白ご飯に砂糖入りのきな粉をかけた「きな粉ごはん」なるものが出ることがあった。







