累計18万部を超え、法律学習の入門書として絶大な支持を集めるベストセラーシリーズ。その最新刊『元法制局キャリアが教える 行政法を読む技術・学ぶ技術』が発売されました。著者の吉田利宏さんは、衆議院法制局で、15年にわたり法律や修正案の作成に携わった法律のスペシャリスト。試験対策から実務まで、行政法の要点を短時間で学べる1冊です。この記事では、「行政法を学ぶべき理由」について、吉田さんに教えてもらいました。

なぜ今、行政法を学ぶべきなのか? 公務員・住民・企業の「3つの理由」イラスト:草田みかん

行政法は、あなたの暮らしや仕事に直結する知識

 行政法と聞くと、「専門的な法律」と感じる人もいるかもしれません。しかし実際には、行政と接点のない暮らしは存在しません。道路や公園、公共施設の利用、ビジネスの許認可、税金や公共サービスの手続き……私たちの日常は、行政とのやりとりで成り立っており、行政法には「住民の自由を守るためのもの」としての面があります。

 なぜ行政法を学ぶ必要があるのか。今回は、公務員・住民・企業という3つの立場から、その必要性を見ていきます。

公務員にとって、行政法を学ぶべき理由

 まず、公務員にとっては「しなやかな行政」を目指すために必要になります。「しなやかな行政」の反対は「杓子定規な行政」です。

 行政法がよく理解できていないと、これまで行ってきた方法、法律の解説書などに書かれたケースの範囲でのみ対応しようとします。少しでもこれらからはみ出してしまうと不安になるからです。

 しかし、実際には世の中は動いています。また、想定していないことも起きます。そうした世の中の動きにうまく対応できるように、条文は少し抽象的に書かれています。その部分をうまく判断しながら(これを「行政裁量」といいます)、行政処分などの対応を行っていくことが「しなやかな行政」なのです。

住民にとって、行政法を学ぶべき理由

 住民からすれば、杓子定規な公務員に振り回されないために行政法の知識が必要です。杓子定規な公務員であっても、何年も仕事をしていると法令用語や行政用語を使えるようになります。難しいことを言われて、納得できないと思いながらも、丸め込まれたり、押し切られることもなくはありません。

「役所だから間違いはないはず……」と信じるのは禁物です。義務を課すには法律や条例を根拠にしなければなりません。説明不足のまま義務を課されそうになったときに「何を根拠にしているのですか?」と尋ねることができるだけでも、相手の対応が違ってくるはずです。

企業にとって、行政法を学ぶべき理由

 企業にとっては、行政法の知識は事業活動に直結する知識です。その自治体で事業をするとしたらどのようなことを守らなければならないのか、どのような負担が課されているか、法律ばかりでなく条例を読む必要があります。

 さらにいえば、他の自治体との比較で検討する必要性も生じます。分権後、各地で独自の条例などを基にする取組みも進んでいます。立地や人口だけでなく、その自治体の法制度もビジネスをめぐる環境のひとつといっても過言ではありません。時には条例の適用などをめぐって、自治体とシビアなやりとりが必要になるかもしれません。

行政法を学ぼう!

 行政法は、一見すると“専門家の世界”に見えます。しかし、公務員にとっては「しなやかに行政を動かす力」となり、住民にとっては「身を守る盾」となり、企業にとっては「事業の成否を左右する地図」となる。そんな、日常の根幹にあるルールです。

 行政が複雑化し、社会の変化が加速する今こそ、行政法はますますあなたの暮らしや仕事に直結する知識になっています。

 まずは、「どんなときに行政法が関わっているのか」を知るところから始めてみませんか? 世界の見え方が一段階クリアになり、行政との向き合い方がガラリと変わるはずです。