シンガポール国立大学(NUS)リー・クアンユー公共政策大学院の「アジア地政学プログラム」は、日本や東南アジアで活躍するビジネスリーダーや官僚などが多数参加する超人気講座。同講座を主宰する田村耕太郎氏の最新刊、『君はなぜ学ばないのか?』(ダイヤモンド社)は、その人気講座のエッセンスと精神を凝縮した一冊。私たちは今、世界が大きく変わろうとする歴史的な大転換点に直面しています。激変の時代を生き抜くために不可欠な「学び」とは何か? 本連載では、この激変の時代を楽しく幸せにたくましく生き抜くためのマインドセットと、具体的な学びの内容について、同書から抜粋・編集してお届けします。
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長年の経験からわかった、投資の本質
私は個人投資家である。
自分のお金だけを投資して、他人様のお金の投資はしない。
自分のお金で投資することの利点は、以下の2つである。
・自分の思考(志向)で投資できる
・時間軸を無限に使える
投資はリスクが高いので、うまくいくときもいかないときもあるので、後悔しないためにも、自分の好きなテーマでやりたい。
自分のお金なら、自分が好きなように使える。
私はいろいろなテーマでいろいろな場所に投資していて、あちこちに投資仲間がいるので、様々な情報を共有している。
今まで、AI、バイオ、教育、Web3、気候変動、ロボット、サイバーセキュリティ、フィンテック、海外不動産等々に投資してきた。
したがって、私のトラックレコード(過去の実績)は多くの人に共有され、それを見て世界中から案件が共有される。
最近では、ある世界的スポーツリーグの有力チームの共同所有権とか、ブロードウェイミュージカルそのものとか、毛色の違ったものもある。
自分のお金だと、時間軸が長く使えるのがいい。スタートアップに投資しても、個人なら、自分の財政状態さえ大丈夫なら、いつまでも成果を待てる。
しかし、ベンチャーキャピタルなどの機関投資家なら、7年とか10年とかで、現金化しないといけない。個人より時間軸を長く使うことができない。「待てない」のだ。
しかし、個人のお金なら「これからはアメリカに投資しておけばいい」と思ったら、あとは時間軸を自由に使えるので、目先の金利とか雇用者数とか気にせず、アメリカの国家としての長期的な魅力を自分で分析して、長期で賭けることができる。
投資をしていて学んだことは多々あるが、投資の本質として身に染みて学んで常に肝に銘じているのは、
「投資は自分で降りるまで、利益を確定するまでは、損も得もない」ということだ。
値上がり値下がりに、一喜一憂するな
メディアで有名人が「株で何千万円損した」とか「クリプト(暗号資産)で何億円儲けた」などと言っているのを耳にすることがあるが、それこそ耳を疑う。
なぜなら、投資は確定するまで損も得もないからだ。
「損した」というが、そんな下がっているときに、わざわざ損を確定するために売っているのだろうか?
「クリプトで儲けた」というが、クリプトのような売買するのがやや面倒なモノで、本当に、そんな素早く利益確定できたのかと疑ってしまう。
多分“途中経過”を言っているのだろう。
“途中経過”なら、そんなもの単なるノイズでしかない。いちいち騒ぐ必要はないし、投資対象というのは、常に値上がったり、値下がったりするので、一喜一憂しているなら、そもそもそんな人は、投資には向かない。
そんなことを、発信力のある人がメディアで喧伝しているのは、ある意味、行儀のいい行いとは言えない。その裏に相場操縦の思いがあるのかもしれない。
自分の時間やエネルギーは、
最も大事な資産
この世に生まれてきた限りは、すべてが投資なのだ。
生き方、つまり、自分の時間やエネルギーをどう使うのか? 時間やエネルギーは、最も大事な資産である。
人は、何らかの形でお金をもらう。お小遣いもあるし、バイト代や給料もある。相続や年金の場合もあるだろう。
ある一定のお金を持った途端、それは投資可能な資金を保有することになる。それを消費しようが、貯蓄しようが、金融商品を購入しようが、ある意味全部投資なのだ。
日本円で持っていることも、投資である。そして、すべてが“途中経過”である。
上下する株を利益確定して現金化したとしても、それを日本円で現金で持っているだけで、これもまた投資である。
それを不動産に変えても投資だし、一部をドルにしても投資である。時間やエネルギーの使い方もお金も、最後までそのリターンはわからない。
ちょっと前までは、「自分が死んだら投資は終わって、そこで損益確定かな?」と思っていた。
しかし、お金持ちの子供は、親が死んで多額のお金を相続すると、ラクして浪費してしまい、ダメになる様子をたくさん見てきた。
「自分が死んでもそのお金の行き先によっては、損となるか益となるかはわからない」と思うようになった。
(本稿は『君はなぜ学ばないのか?』の一部を抜粋・編集したものです)
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院 兼任教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル・リーダーシップ・インスティテュート フェロー、一橋ビジネススクール 客員教授(2022~2026年)。元参議院議員。早稲田大学卒業後、慶應義塾大学大学院(MBA)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院修了。オックスフォード大学AMPおよび東京大学EMP修了。山一證券にてM&A仲介業務に従事。米国留学を経て大阪日日新聞社社長。2002年に初当選し、2010年まで参議院議員。第一次安倍内閣で内閣府大臣政務官(経済・財政、金融、再チャレンジ、地方分権)を務めた。
2010年イェール大学フェロー、2011年ハーバード大学リサーチアソシエイト、世界で最も多くのノーベル賞受賞者(29名)を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で当時唯一の日本人研究員となる。2012年、日本人政治家で初めてハーバードビジネススクールのケース(事例)の主人公となる。ミルケン・インスティテュート 前アジアフェロー。
2014年より、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授としてビジネスパーソン向け「アジア地政学プログラム」を運営し、25期にわたり600名を超えるビジネスリーダーたちが修了。2022年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校においても「アメリカ地政学プログラム」を主宰。
CNBCコメンテーター、世界最大のインド系インターナショナルスクールGIISのアドバイザリー・ボードメンバー。米国、シンガポール、イスラエル、アフリカのベンチャーキャピタルのリミテッド・パートナーを務める。OpenAI、Scale AI、SpaceX、Neuralink等、70社以上の世界のテクノロジースタートアップに投資する個人投資家でもある。シリーズ累計91万部突破のベストセラー『頭に来てもアホとは戦うな!』など著書多数。



