シンガポール国立大学(NUS)リー・クアンユー公共政策大学院の「アジア地政学プログラム」は、日本や東南アジアで活躍するビジネスリーダーや官僚などが多数参加する超人気講座。同講座を主宰する田村耕太郎氏の最新刊、君はなぜ学ばないのか?』(ダイヤモンド社)は、その人気講座のエッセンスと精神を凝縮した一冊。私たちは今、世界が大きく変わろうとする歴史的な大転換点に直面しています。激変の時代を生き抜くために不可欠な「学び」とは何か? 本連載では、この激変の時代を楽しく幸せにたくましく生き抜くためのマインドセットと、具体的な学びの内容について、同書から抜粋・編集してお届けします。

世の中にイノベーションを起こす起爆剤となる、意外な人たちとは?Photo: Adobe Stock

イノベーションを邪魔するのは、勤勉さ

 イノベーションが社会に浸透する場所の特徴は、以下の2つ。

創造的破壊を受け入れる社会風土がある
・知的財産権と私的財産権が法執行機関により保証されている

 それに加えて大きいのは、
・暇人や怠け者が多い
ということだ。

 勤勉な人たちに囲まれていると、イノベーションは浸透しない。

 ワクチンとか抗生物質とか生命にかかわるものは別だが、多少の生産性が上がるようなイノベーションを邪魔するのは、勤勉さだ。

 勤勉な人たちこそ、そのイノベーションを活用して、もっと付加価値を上げればいいのに、勤勉さでイノベーションを封じ込めてしまうのだ。

 勤勉な人に怠けろといっても無理だろうから、勤勉な人こそ、イノベーションを取り入れて、勤勉さの経済的価値を増せばいい。

 逆に、怠け者の人は、自らがイノベーション浸透のリーダーだと思ってほしい。

 怠け者の人は、「あれもこれもテクノロジーがやってくれればいいのに」と妄想しているはずだ。それこそが次のイノベーションの種になるのだ。

経済的・時間的余裕ができて、
宗教や哲学が発達した

 イノベーションにより、ラクをして暇になれば、またそこから次のイノベーションが生まれることは、歴史を見ればわかる。

 紀元前500年ごろに、突然「知の爆発」が起こった。この時期にソクラテス、仏陀、孔子などの思想家・哲学者が世界中で同時に誕生したのだ。

 この背景には、
気候の温暖化による食糧生産の増大
鉄器
というイノベーションの誕生があった。

 このおかげで、大幅な食糧生産増大と経済成長が実現され、人々は経済的・時間的に余裕ができた。そして、暇を持て余して思考や思索にふけり、宗教や哲学のイノベーションが起こった

人口当たりで最もAIを使用している国は、日本

 最近、とても頼もしい傾向が日本に出てきている。人口当たりで最もAIを使用している国は、実は、日本なのだ。

 openai.comのサイトへの国別トラフィックシェアで、日本は米国とインドに次いで3位となっている。

 野村総合研究所の分析によると、「日本は人口規模を考えれば、米国、インドよりもChatGPTの利用度合いが高い」という。

 しかも、日本からのアクセスの平均滞在時間は8分56秒で、米国(6分50秒)やインド(6分27秒)よりも長くなっている。

 これは、日本人が怠けてラクをし始めたり、暇を持て余してきていることの兆候かもしれない。そして、それが日本から、次のイノベーションを起こすことにつながることを期待したい。

(本稿は君はなぜ学ばないのか?の一部を抜粋・編集したものです)

田村耕太郎(たむら・こうたろう)
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院 兼任教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル・リーダーシップ・インスティテュート フェロー、一橋ビジネススクール 客員教授(2022~2026年)。元参議院議員。早稲田大学卒業後、慶應義塾大学大学院(MBA)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院修了。オックスフォード大学AMPおよび東京大学EMP修了。山一證券にてM&A仲介業務に従事。米国留学を経て大阪日日新聞社社長。2002年に初当選し、2010年まで参議院議員。第一次安倍内閣で内閣府大臣政務官(経済・財政、金融、再チャレンジ、地方分権)を務めた。
2010年イェール大学フェロー、2011年ハーバード大学リサーチアソシエイト、世界で最も多くのノーベル賞受賞者(29名)を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で当時唯一の日本人研究員となる。2012年、日本人政治家で初めてハーバードビジネススクールのケース(事例)の主人公となる。ミルケン・インスティテュート 前アジアフェロー。
2014年より、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授としてビジネスパーソン向け「アジア地政学プログラム」を運営し、25期にわたり600名を超えるビジネスリーダーたちが修了。2022年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校においても「アメリカ地政学プログラム」を主宰。
CNBCコメンテーター、世界最大のインド系インターナショナルスクールGIISのアドバイザリー・ボードメンバー。米国、シンガポール、イスラエル、アフリカのベンチャーキャピタルのリミテッド・パートナーを務める。OpenAI、Scale AI、SpaceX、Neuralink等、70社以上の世界のテクノロジースタートアップに投資する個人投資家でもある。シリーズ累計91万部突破のベストセラー『頭に来てもアホとは戦うな!』など著書多数。