「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。
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頭がよくても、なぜ人はついてこないのか?
あなたの周りにも、頭の回転が速く論理的で、会社からの評価も高い人がいるかもしれません。
それにもかかわらず、部下がついてこないという状況を見たことはないでしょうか?
話している内容は正しく、指摘も的確で、正論も多い。それでも部下が動かず、組織がまとまらず、結果につながらないという場面が起こることがあります。
この原因は、「頭が悪いから」でも「性格に問題があるから」でもありません。
戦略と現場のあいだに心理的距離が生まれていることが、原因となっている場合が少なくありません。
正論を語る人ほど、無意識のうちに“自分の答え”を前提に周囲へ働きかけがちです。
すると部下は、
・ 「正しいし理解はできる、けれど“自分の仕事”として捉えられない」
・ 「言われたことをこなしているだけで、腹落ちしない」
という状態に陥り、結果として自ら動けなくなってしまうのです。
「正しい戦略」よりも、
「当事者としての戦略」が人を動かす
頭のいい人が陥りがちなのは、戦略の「正しさ」ばかりを語り、現場との接点が見えないまま議論を進めてしまうことです。
「市場環境がこう変わるから、我々はこう動くべきだ」
「このプロセスは非効率だから、こう改善すべきだ」
いずれも論理としては正しく、筋が通っています。
しかし部下にとっては、自分の仕事とどこで結びつくのかが見えず、言われたことをこなすだけの“他人事の戦略”になってしまいます。
ここに欠けているのは、「それは、誰にとって、どんな意味があるのか」という視点です。
戦略が実行に移るのは、部下がそれを自分の役割と結びつけて理解できたときです。
いくら優れた分析があっても、部下が、
「これは自分にどんな関係があるのか」
「これを達成すると何がどう変わるのか」
「なぜ自分が動く必要があるのか」
を理解できなければ、戦略は行動に変わりません。
頭のよさと、人が動くかどうかは別の次元にあります。
人が動くのは、正しさではなく“自分に関係する物語”を見いだしたときです。
戦略が動く組織は、
チームの設計を重視している
モノづくり、コトづくりから、さまざまな主体が関わり価値を生む場づくりへと移行する時代において、多様なメンバーと協働し、共創する力が戦略実行の前提になっています。
こうした時代に部下がついていくリーダーに共通しているのは、優れた戦略を語ること以上に、戦略を自分事として受け止められる“チームの構造”を整えている点です。
単にスキルのある人材を集めても、戦略は前に進みません。
特に戦略実行の初期段階では、方向性や価値観を共有し、メンバーが同じ前提に立てるようにチームの設計を行うことが欠かせません。
これが機能しない組織では、どれほど優れた戦略を示しても、各人がバラバラの前提で動き、やがて足並みが乱れていきます。
一方で、「なぜこの方向に向かうのか」「自分はどの役割を担うのか」といった問いが共有されているチームは、メンバーが自律的に動きながらも、全体として揃った動きが生まれます。
そのためにも、リーダーが行うべきは、戦略を押しつけるのではなく、戦略が腹落ちするプロセスを丁寧に設計することです。
そして、戦略を“自分事”として捉え、最後までやり抜こうとする姿勢を持つメンバーが、その力を発揮できるように構造を整えること。これこそが、日本の組織における戦略実行の成否を分ける鍵となります。
『戦略のデザイン』では、この自分事化を支えるチーム設計の重要性を詳しく解説しています。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




