「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。

「チームを成功に導くリーダー」が必ず押さえている、たった1つのポイントPhoto: Adobe Stock

なぜ、順調だったプロジェクトが
突然とん挫するのか?

「顧客や関係者の声を丁寧に聞き、慎重に進めていたプロジェクトが、ある日突然止まってしまった」

 そんな経験はありませんか?

 あるいは、こんな疑問を抱いたことはないでしょうか。

「誰の役にも立っていないのに、なぜあの事業は続いているのだろう?」

 実はこれらは、いずれも日本の組織構造に深く根ざした問題なのです。

日本の組織では、
トップの影響力が圧倒的

 タテ社会の日本では、トップ層に強い権力が集中します。実際、多くの企業で、現役を退いた後も影響力を持ち続ける顧問や役員の存在を目にします。

 彼らがそれほどの影響力を持つ理由は、日本企業における“競争フィールドの狭さ”にあります。

 特に大企業では、新卒で入社してから数十年をかけて、ようやく社長候補のラインに乗るという長期戦が当たり前です。

 この長く厳しい内部競争を勝ち抜いた人物は、形式的な権限以上に、組織全体に影響を及ぼす“村社会的な権力”を持つようになります。

 そのため、日本企業では「誰が公式に偉いか」よりも、「誰が実質的な影響力を持っているか」のほうが、プロジェクトの成否を左右することが少なくありません。

優れたリーダーは、「誰から信任されるべきか」を
正確に見極めている

 こうした日本企業の構造を理解しているリーダーは、組織内で実質的に力を持つ人物から信任を得ることを決して怠りません

 またそれは、必ずしも現社長とは限りません。

 こうした行動を「根回し」「非効率」と批判する声もあるでしょう。確かに、欧米的な合理性の観点からは、そう見えるかもしれません。

 しかし、日本企業における意思決定をスムーズに進めるうえで、“誰に信頼されるか”という構造理解は、極めて合理的なアプローチです。

 そして、この特性を生かして日本が経済大国となったことも、忘れてはならない事実です。

 とはいえ、重要なのは「欧米式か、日本式か」という単純な二項対立ではありません。

 日本型組織の特性を前提に、“いかに仕組みをデザインするか”という視点が求められているのです。

『戦略のデザイン』では、こうした日本の組織文化を踏まえながら、戦略を実行に移すための思考法や実践的ツールを、豊富な事例とともに紹介しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。