「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。

頭はいいけど「他部署とうまくいかない人たち」に共通する特徴Photo: Adobe Stock

なぜ優秀なのに、
他部署との摩擦が絶えないのか?

 自部署では高く評価され、判断も早く、専門性も申し分ない。にもかかわらず、他部署と協働しようとした瞬間、話がかみ合わなくなる。

 そんな人を見かけたことはないでしょうか。

 本人は真剣で、成果を出すために最短距離で動こうとしているだけで、それでも他部署との間に摩擦が生まれるのは、「能力不足」ではなく、視点が自部署に閉じてしまう構造に理由があります。

 自部署を最適化することと、組織全体で価値を生むことは、まったく違う論理です。

 この差に気づけないまま動いてしまうと、優秀な人ほど場を混乱させてしまうことがあります。

自部署の最適化だけを追うと、
摩擦は必ず増えていく

 他部署と問題を起こしがちな人は、知らず知らずのうちに、自分の部署の都合を前提に判断してしまう傾向があります。

 たとえば、

「これ以上はうちのリソースが厳しい」
「この手順の変更はうちの負担が大きい」
「あちらが動いてくれないから進まない」

 いずれも事実として正しいことが多いのですが、他部署の前提を加味しての発言ではありません。

 すると相手部署も自部署の正義で応戦するため、話し合いは平行線をたどり、摩擦は深まっていきます。

 ここで欠けているのが、「この問題は、組織全体にとってどのような意味を持つのか」という一段視点を引き上げる問いです。

 問いの抽象度が揃わない限り、同じ問題を見ても「どこが重要か」や「何を優先すべきか」は食い違います。

 摩擦の原因は、人の相性ではなく、問いのレベルが揃っていないことにあるのです。

他部署とうまくいく人は、
「全体の構造」を踏まえて動いている

 社内連携が上手な人に共通しているのは、自部署を起点にしながらも、思考の基準を常に組織全体の構造に置いているという点です。

 彼らは、自分の部署の目標を語る前に、

 ・この施策の本来の目的はなにか?
 ・全社にとってより大きなメリットをもたらす選択は何か?
 ・全体の成果を最大化するために、自分はどう動くべきか?

といった、より上位の問いを投げかけながら動いています。

 この問いかけがあることで、視点が自部署から一段引き上がり、より大きな構造を見渡せるようになります。そして、他部署とのコミュニケーションも「調整」ではなく「共創」へと変わっていきます。

 重要なのは、個々の部署がそれぞれ正しい主張をすることではなく、組織全体の価値をどうつくるかという視点で対話することです。

 この一段上の視点が加わったとき、優秀な個人は、他部署からも信頼される“全体を動かせる存在”へと変わります。

『戦略のデザイン』では、このように“全体の構造を踏まえて動く人材をどう選び、どう育てていくか”を詳しく解説しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。