「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。

頭はいいけど「新しい発想が出てこない人たち」に共通する特徴Photo: Adobe Stock

頭が良くても、
なぜ“新しい発想”が出てこないのか?

 あなたの周りにも、頭の回転が速く、論理的で、問題解決力が高いと評価されている人がいるかもしれません。

 しかし、その人たちが必ずしも新しいアイデアを生み出しているとは限りません。

 与えられた課題を整理し、最適解へと導く力は確かに優れている一方で、ゼロから価値を創り出す場面では思考が止まり、従来の枠組みを超えた発想が出てこない。

 そんな状況が見られることは、少なくありません。

 この現象は、多くの場合、思考の出発点が目の前の問題に固定されてしまうことに原因があります

 たとえばビジネスの現場では、「なぜを5回問う」という問題深掘りの手法が広く知られています。

 もちろん、問題の構造を理解するためには効果的な方法です。

 しかし、どれだけ深く掘り下げても、掘る場所が同じである限り、新しい発想は生まれません。

新しい発想を生む人は、
「遠くから」発想を持ってくる

 新しい発想が出てこない人に共通しているのは、思考の参照範囲が狭く、目の前の問題だけで完結させようとしてしまうことです。

 どれだけ時間をかけても、現在の延長線上の発想からは新しい視点は生まれません。

 その発想が導くのは「改善案」であって、「独自の構想」ではないからです。

 新しい発想を生み出すコツは、思考をあえて遠くに飛ばすことを意識し、それを習慣化することです。

 たとえば、

 ・まったく別の業界の事例
 ・経済規模が異なる国の事例
 ・100年前の事例

 ・架空の設定に基づく仮想事例

 といった、自分の経験や情報圏の“外側”にある視点を取り込むことは、発想の幅を広げ、独自の価値提案を構想するうえで大きなヒントとなります。

 新しい発想は、深掘りの先ではなく、視点を移した先に見えてくるものです。

発想力は「センス」ではなく、
参照範囲の設計で決まる

 新しい発想を生み出す力は、一部の人だけが持つ特別な才能ではありません。

 決定的に違うのは、思考の参照範囲をどのように設計しているかです。

 発想が出てくる人は、自分の経験や所属分野だけに閉じず、遠くの事例・概念・未来像などを思考の材料として取り込みます。

 そのうえで、抽象化し、そこから活用できる要素を抽出するプロセスを大切にしています。

 思考の出発点を遠くに置く習慣を持つことで、発想の選択肢は大きく広がり、従来の延長線では思いつかなかった問いや構想が生まれてきます。

 逆に、参照範囲が狭いまま問題の深掘りだけを続けても、得られるのは「分析の精度」であり、「発想の質」ではありません。

『戦略のデザイン』では、この“遠くからアイデアを持ってくる”という思考法を体系的に解説しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。