「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。
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優秀なのに、なぜ
いつも忙しさに追われてしまうのか?
頭が良く、情報処理能力も高く、判断も的確でスピード感がある。
それにもかかわらず、常に時間が足りなさそうで、仕事に追われている人は、あなたの周りにもいるのではないでしょうか。
彼らは決して能力が低いわけではありません。むしろ、周囲から頼られ、次々と仕事が集まってくるほど優秀な人たちです。
それでも忙しさから抜け出せない理由は、「不」の解消に意識の大半を奪われてしまっているためです。
目の前の「不便」「不満」「不安」など、いわゆる「不」に素早く反応し、その都度解消する姿勢は、一見すると正しい行為に見えます。
しかしこの働き方では、不が生まれる構造そのものに向き合う時間がなく、結果として忙しさが再生産され続けてしまいます。
最近では、誰もがAIエージェントをつくれるようになったことで、不の解消にさらに拍車がかかるケースも見られます。
しかし、ユーザの声に丁寧に反応して次々とエージェントをつくり続けるうちに、本来向き合うべき背景や構造が置き去りになってしまうのです。
「不」を追い続ける働き方は、
忙しさを増幅させる
ユーザや現場から寄せられる「不」は、多くの場合、表層に現れた結果にすぎません。
「この作業を自動化してほしい」
「この手順をもっと簡単にしたい」
「このフォーマットを統一してほしい」
こうした要望は、生産性向上につながりそうに見えます。
しかし、不が生まれる背景には、組織構造、役割分担、業務設計、意思決定プロセスの歪みなど、より深い要因が潜んでいることが少なくありません。
不の解消だけに集中すると、短期的には便利になりますが、根本原因が残ったままのため、次々と新たな不が生まれ続けます。
視野が不に引き寄せられることで、本来向き合うべき“構造の問題”が見えなくなり、対応すべき業務が増え続け、忙しさが減らない働き方が固定化されてしまいます。
これが、「優秀なのにいつも忙しい人」が陥りがちな構造です。
忙しさの原因は「仕事量の多さ」ではなく、“不を生む構造が放置されていること” にあります。
忙しさから抜け出すには、
「不の奥の構造」を見る
忙しさから抜け出す鍵は、不の根底にある背景や構造に目を向けることです。
たとえば、
・なぜこの不が繰り返し発生するのか?
・どの役割やプロセスが不を生み出しているのか?
・この不が解消された状態とはどのようなものか?
・構造的に解決するための仕組みは何か?
といった問いを立てることで、初めて「不の原因」に近づくことができます。
この視点を持てば、エージェントや自動化ツールの活用も単なる“不の応急処置”ではなく、構造を変えるための打ち手として位置づけられるようになります。
そうすることで、問題は仕組みの中で自然と減り、対応に追われる時間も減り、本質的な価値創造に集中できる状態へと移行します。
『戦略のデザイン』では、こうした「不の奥にある構造を見極める」視点をわかりやすく整理しています。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




