「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。

頭はいいけど「意思決定が遅い人たち」に共通する特徴Photo: Adobe Stock

慎重で几帳面なのに、なぜか決められない

 情報分析が得意で、几帳面で、どんな場面でも冷静に状況を捉えられる。周囲から「優秀だ」と評価される人ほど、意思決定の場面で立ち止まってしまうことがあります。

 彼らは感情に流されず、論理的に物事を判断しようとするため、「もっと調べてから決めたい」「他部署の状況も確認しておきたい」と、必要な情報を揃えることに意識が向きがちです。

 慎重に判断しようとする姿勢そのものは価値がありますが、情報を揃えようとするあまり、意思決定のタイミングを逃してしまうことがあります。

 一見すると強みに見える特徴が、意思決定の場面では裏目に出てしまう現象は、現代のように不確実性が高いビジネス環境では特に顕著です。

 なぜなら、今の時代には「正解」が存在しないためです。

 どれだけ情報を集めても完全な材料が揃うことはなく、判断に必要な前提も日々変化し続けます。

 正しさを追求すればするほど、かえって動けなくなってしまうのです。

意思決定が遅い人は、
「判断軸」が曖昧なまま情報を集め続ける

 意思決定が遅い人に共通しているのは、判断基準が定まらないまま情報だけを集め続けてしまう点です。

 情報は集めれば集めるほど増えていき、増えた情報は判断を助けるどころか、しばしば意思決定を複雑にします。たとえば、

 ・他部署の状況
 ・市場環境の変化
 ・過去事例の有無
 ・想定されるリスク
 ・社内の優先順位

 などはいずれも重要な情報ですが、判断軸が定まっていない状態でこれらに向き合うと、「もっと調べてから」「もう少し検討を」と、意思決定は先延ばしされてしまいます。

 重要なのは、情報の量ではありません。先に判断軸を持つことで、どの情報が重要で、どれを切り捨てるべきかが自然と見えてきます。

 反対に、判断軸が曖昧なまま情報を集めようとすると、すべてが気になり、どれも手放せなくなります。

意思決定を速くするには、
「未来からの逆算」が欠かせない

 不確実性が高い時代において意思決定のスピードを上げるには、未来から逆算する「バックキャスト思考」が極めて有効です。

 バックキャスト思考とは、

 ・10年後にどのような状態を実現したいのか
 ・組織はどうありたいのか
 ・そこで自分はどんな役割を果たしていたいのか

 といった未来の姿を先に描き、そこから現在に向かって道筋を逆算して考える方法です。

 未来の方向性がはっきりすれば判断軸が自然と定まり、「今決めるべきこと」と「後回しにしてよいこと」の線引きが明確になります。

 その結果、意思決定の迷いは大幅に減少します。

 現代は「正解」が存在しないうえに、扱う情報量も増え続けています。

 判断の迷いが生まれやすい時代だからこそ、未来から逆算した判断軸を先に持つことで、状況に応じて最善手を選び続ける意思決定へと切り替えることができます。

『戦略のデザイン』では、この未来から逆算するバックキャスト思考をわかりやすく整理しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。