滋賀県のパナソニック草津工場滋賀県のパナソニック草津工場 Photo by Mayumi Sakai

SNS上のネガティブな声から生まれたヒット商品がある。パナソニックの新しい全自動コーヒーメーカーは、発売から「1カ月待ち」のヒットになった。その裏側には、月180時間かかっていたFAQ分析をゼロに、2週間かかっていたSNS分析を2日に短縮した、勤続30年超のベテランとデジタルネイティブ世代の若手社員による共創があった。(ノンフィクションライター 酒井真弓)

ユーザーの声に応えて「小さくしただけ」で、1カ月待ちのヒット商品が誕生

 ユーザーの声に応えること。それはモノづくりの基本であり、ビジネスの本質だが、簡単にできたら誰も苦労はしない。

「サイズが大きい」「もう少し小さければ」――SNS上に散見されたパナソニック製コーヒーメーカーへのちょっとした不満。商品担当者も認識はしていたが、動けなかった。サイズ変更に踏み切るほど深刻な不満なのか、数字で示せなかったからだ。

 ブレイクスルーとなったのは、SNS上に自由に書き込まれた定性情報を定量化し、「ネガティブ評価の割合」として数字で示せるようにしたことだった。同社はデータ分析ツールのDomo(ドーモ)とChatGPTを組み合わせ、楽天やAmazonのレビューを分析。各社のコーヒーメーカーに対するユーザーの反応を比較した。

 すると、パナソニック製品は使い勝手やメンテナンス性で高く評価されているのに対し、サイズだけはネガティブな評価が集中していたのだ。

 コンパクトになった新製品は、なんと1カ月待ちの大ヒットとなった。コーヒー豆を挽き、蒸らし、抽出、保存するという基本機能は、前のモデルとほぼ変わっていないのに、である。

コーヒーメーカーの新製品「NC-A58」コーヒーメーカーの新製品「NC-A58」。設置面積は現行比約80%。キッチンで場所をとらないコンパクトボディを実現した(パナソニックの製品サイトより)