MITに通わずに、たった1年で「MITの4年分の授業」を独学で修了した人物がいる。
その名はスコット・H・ヤング。彼が実践したのは、どんなスキルでも最速で習得するための学習法――『ULTRALEARNING 超・自習法』である。膨大な情報があふれ、スキルの寿命が短くなった現代において、いかに効率よく学び続けるか。本連載では、ウォール・ストリート・ジャーナル・ベストセラーにもなった本書の「学習メソッド」を紹介していく。(構成:ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

最強の勉強法のイメージPhoto: Adobe Stock

MITに行かずに、MITの学生より短期間で学ぶ

 著者は大学卒業後、「自分は間違った専攻を選んだのではないか」と悩んでいた。

 彼が学んだのはビジネスだったが、本当に興味があったのはコンピューター科学だった。

 再び大学に入り直すには時間もお金もかかる――そう思い悩んでいたとき、彼は偶然、MIT(マサチューセッツ工科大学)の授業が無料でオンライン公開されていることを知る。

 こうして始まったのが、「MITチャレンジ」である。MITの4年間分の講義・課題・試験をすべて自宅で独学し、わずか1年で学び切るという無謀な挑戦だった。

 動画講義を2倍速で視聴し、宿題や試験問題を独自に解き、成果を可視化しながら進める。「授業を受ける」よりも「使えるスキルを最短で身につける」という形で著者は学んだ。

授業への出席を強制されることはない。宿題の提出期限もない。期末試験は準備ができればいつでも受けられて、落第しても再試験を行うことができた。(『ULTRALEARNING 超・自習法』より)

 著者は、従来の「学び方」そのものを疑い、徹底的に“最短距離で学ぶ”ことにこだわった。

 結果、MITの学生が4年かけて修了する内容を、独学で1年で終えることに成功する。

 この経験から彼は確信する。正しい戦略と集中力があれば、誰でも自力で深く学べるのだ。

集中的な学習がもたらす「爆発的成長」

 著者の挑戦は、単なる「速い学び方」ではない。

 彼が発見したのは、“集中の密度”こそが学習効果を決定づけるという事実だった。

 学習は時間ではなく、どれだけ深く・能動的に向き合えるかで成果が変わる。MITチャレンジの成功は、その証拠である。

 本書によれば、ウルトラ・ラーニングの核心は「集中的な学習(intense learning)」にある。

 たとえば、毎日30分の勉強を1年間続けるより、1週間全力で50時間集中するほうが、スキルの習得速度も理解の深さも圧倒的に高くなるだろう。

 これは単なる根性論ではなく、脳科学の一般的な知見でも、集中した学習は記憶定着を促すと言われている。

 また、AIやデジタルツールが急速に進化する今、スキルが陳腐化するスピードはますます速くなっている。

 だからこそ、漫然と情報を浴びるのではなく、一定期間に“爆発的に集中して学ぶ”ことが重要になるのだ。

 何より、この方法の魅力は“誰でも始められる”点にある。特別な才能や高価な教材は不要だ。

テクノロジーによって学習はかつてないほど容易になったが、授業料は高騰している。またこれまでは、4年制の大学を出ればきちんとした仕事に就けることが保証されていた。しかしいまでは、それは単に第一関門を突破するものでしかない。最高のキャリアに就くには、偶然では手に入れられない高度なスキルが求められる。(『ULTRALEARNING 超・自習法』より)

 必要なのは、学ぶ目的を明確にし、短期間で集中する覚悟だけである。

誰でも「ウルトラ・ラーナー」になれる

 著者が強調するのは、「ウルトラ・ラーニング」は一部の天才のものではないという点である。

 むしろ、“自分の手で学びを設計できる人”こそ、これからの時代に最も価値を持つと彼は述べる。

 彼のプロジェクトを支えたのは特別な才能ではなく、学習のプロセスを“自分でデザインする力”だった。

 たとえば、目標を決める前に「なぜ学ぶのか」「何を学ぶのか」「どうやって学ぶのか」を徹底的に整理する。

 これを本書では「メタ学習」と呼ぶ。闇雲に参考書を開く前に、地図を描く――それが、最短で成果を出す秘訣である。

 学習を始める前に「自分の弱点=ボトルネック」を分析し、そこを重点的に改善することが効率を高めるカギだろう。

 著者は、地図を描くように学習の全体像を把握し、どこに時間をかけるべきかを明確にすることの重要性を説いている。

 また、本書を読み進めると、「学んで成長できる人」と「成長が止まる人」の違いが見えてくる。

 成長できる人は、失敗を恐れずに実験する。誰かの指示を待たず、自分で学び方を作っていく。著者が本書で示しているように、“自分自身が教師であり、同時に生徒でもある”という姿勢が重要なのだ。

 社会人の「学び直し」や転職準備、副業スキルの習得など、学ぶ理由は人それぞれだ。

 しかし、どんな目的であれ、学びを他人任せにせず、自分で構築する姿勢が求められる。

 著者のMITチャレンジは、まさにその象徴であり、私たちに「独学すること」への勇気を与えてくれる。