若いときは鳴かず飛ばずだったが、歳をとるに連れて成果が出るようになった原因はいくつか思い当たる。ひとつは、新たに挑戦した分野の研究が自分にとってやり甲斐の感じられる仕事だったこと。また、その仕事に関心をもって一緒に研究してくれる仲間がいたこと。さらに、数学に執着し続けた結果、少しずつセンスが磨かれてきたことなどだ。特に、仲間作りのため、1997年(51歳の頃)から毎年、国際会議JCDCG(離散・計算幾何学日本国際会議)を開催し続け、国内外の研究者たちと活発に刺激し合う機会を保ち続けてきたことも大きかった。
この研究会議には世界中から若い研究者が参加する。彼らに引きずられて自分も若くなる。彼らの斬新なアイディアを肌で感じ、刺激になる。また、数学に限らず、さまざまな世間話などもしつつ、新しい世界が拓ける。
50代で始めても遅くない
むしろ成長の速度が早くなった
『数学者に「終活」という解はない』(秋山 仁、講談社)
40代、50代の時に、それまでやってきたこと(グラフ理論)にしがみつかず、思い切って新たな分野に挑戦して本当に良かったと思っている。自分の経験から、始めるのが50代だから遅いなんてことはまったくない。好奇心と向上心および執着心(努力し続ける心)さえあれば年齢は関係なく、人間は成長し続けられる。
私の場合、歩みは遅いけど、40代、50代の時より、現在の方が、本業でも習い事や趣味でも、成長の速度は早くなったと思う。「80代、90代と年を重ねていくにつれ、これからもっともっと凄い作品を出せるようになるぞ」という北斎ほどの自信はないが、「まだまだ勝負してぇんだ、この世とよぉ」という80代の頃の北斎の勇ましい言葉に表れている、彼のような情熱が、80代の私にもあったらいいなと思っている。







