三十数年前、女優・桃井かおりとの対談で、数学者・秋山仁は思いがけない言葉を突きつけられる。そして、その一言が“レゲエ数学者”として知られる秋山の人生観を揺さぶったのだ。ただ存在することと、生き甲斐のある人生を送ることの違いを秋山自身の経験と心揺さぶられる先人たちの言葉から考える。※本稿は、数学者の秋山 仁『数学者に「終活」という解はない』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。

桃井かおりとの対談でわかった
俳優と数学者の共通点

 数学はいいですよ。お勉強を重ねて、積み重なって、高くなっていくものでしょ。でも、私の仕事は積み重なっていくものがない。熟すと腐るという感じ 桃井かおり(女優)

桃井かおり桃井かおり Photo:Dave Benett/gettyimages

 今から三十数年前、女優の桃井かおりさんと対談した時に(1992年夏)、上記のようなことを言われた。当時、桃井さんは映画でもTVドラマでも印象深い素晴らしい役を立て続けに演じ、私の周りでも男女問わず、憧れの存在だと言う人が多かった。だから、桃井さんから、こんな言葉が出てきたのは意外だった。

 そして、対談の中で彼女は、「今までやってきたのと同じことをやっていっても腐るだけだから、新しい自分を生み出していきたい。その方向性が見え始めたところなの」ということを話してくれた。今までの自分と本当の自分を俯瞰できるようになってきたのだと。「自分を変えていくために、新しいことにどんどん挑戦している」ということも話していた。

 まさに、そういう時だったからこそ、当時“レゲエ数学者”などと言われていた得体の知れない私との対談を物珍しく思い、登場してくれたのかもしれない。