「地獄に落ちろ…」従順だった部下が上司にプッツンした〈決定的な瞬間〉【マンガ】『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第42回では、目に見えないがビジネスで重要な“資産”について解説する。

トンデモ上司に「地獄に落ちろ」

 主人公・花岡拳が手がけるTシャツ専門店「T-BOX」は、手に入れた新素材の生地をライバル・井川泰子に横取りされてしまう。しかし井川たちがその生地で作ったTシャツは、粗い縫製のため、一度洗濯すれば糸がほつれるという不良品だった。

 まさに自ら墓穴にはまった井川だが、「Tシャツひとパターン、ちょっとトラブっただけよ。気にすることはないわ」と自らの態度を顧みない。さらには部下である高野雅人に、残りの生地をメーカーに返品するよう命令する。

 さすがの高野も今度ばかりは井川の態度に怒り、彼女が去ったあとには目の前の椅子を蹴り飛ばし、壁を殴って「地獄に落ちろ、井川」とつぶやくのだった。

 結局、井川たちから生地の返品を受け付けざるをえなくなったメーカーの社長は、花岡たちに頭を下げ、「値段の大幅値下げなどをするので、生地を買ってくれないか」と相談を持ちかける。

 それに対して花岡は「この件は一切を水に流しましょう」と語り、元々やりとりしていた値段で生地の取引を再開すると提案するのだった。

恩を売ることで得られる「目に見えないもの」

漫画マネーの拳 5巻P139『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 好条件に釣られて、本来の取引相手だった花岡よりも井川に生地を卸すことを決めたのはメーカーの社長だ。なのになぜ相手に譲歩して取引をするのか――商談の帰り道、花岡は部下の大林隆二からそんな質問を受ける。

 すると花岡は真剣な表情で「俺は…人の弱みにつけ込むような商売はしない」と語り、そのあと表情を崩して「なんちゃってな…」と冗談めかして、大林にこう説いた。

「恩を売る。それで立場が強くなる。モノがいえる。主導権を握れる」

「商売というのは……心を売って金にかえることなんだよ」

 一見すれば目先の利益を手放す行為にも見えるが、これは令和の経営にも必要な「レピュテーション(評判)」の蓄積に他ならない。

 評判というのは、貸借対照表にこそ載らないが、投資や融資の条件、取引先からの信用、従業員の献身、さらには採用市場での競争力などに結びつく“見えない資産”だ。

 実際、スタートアップの世界でも“恩”を積み重ねて信頼を勝ち取った例は多い。例えばビジネス用のメッセージングツールとして大きな地位を獲得したSlackもそうだ。

 創業期は資金を大量に投下したマーケティングではなく、ユーザーの体験を向上させて、製品の評判を得ることに注力した。アプリ上からのヘルプや要望の送信に加え、SNSでの製品評価もチェックして、開発を進めているのだという。

「主導権」の話とは少し異なるが、評判の蓄積がビジネスの成功につながるという意味では、このSlackの方針も、花岡たちと通ずるところがあるのではないか。

 次回、物語の舞台は3年後に移る。はたして花岡たちのT-BOXはどんな成長を遂げているのか。

漫画マネーの拳 5巻P140『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 5巻P141『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク