AIが「使えるかどうか」は、人間側の「使い方」で決まります。
そう語るのは、グーグル、マイクロソフト、NTTドコモ、富士通、KDDIなどを含む600社以上、のべ2万人以上に思考・発想の研修をしてきた石井力重氏だ。そのノウハウをAIで誰でも実践できる方法をまとめた書籍『AIを使って考えるための全技術』が発売。全680ページ、2700円のいわゆる“鈍器本”ながら、「AIと、こうやって対話すればいいのか!」「値段の100倍の価値はある!」との声もあり話題になっている。思考・発想のベストセラー『考具』著者の加藤昌治氏も全面監修として協力し、「これを使えば誰でも“考える”ことの天才になれる」と太鼓判を押した同書から、AIの便利な使い方を紹介しよう。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)

頭の悪い人はChatGPTで「文章作成」する。では、賢い人の“すごい使い方”とは?Photo: Adobe Stock

「効率化」「自動化」だけじゃ、もったいない

 AIを仕事に活用できるシーンは多々ありますが、業務の効率化や自動化だけに使うのは少々もったいない。

 新しいアイデアを考えたり、問題解決をしたりといった、「頭を使う作業」にもAIは活用できます。

 ただし、適当な聞き方をしても、質の良い回答は得られません。ロクでもない回答が返ってきてしまうときには、人間側の質問(プロンプト)が適切でないことがほとんどなのです。

AIを使って「斬新な発想」を生みだす方法

 たとえば、斬新な発想をしたいときにおすすめの聞き方があります。

 それが、『AIを使って考えるための全技術』で紹介されている技法その1「多様な特徴」です。こちらが、そのプロンプトです。

<技法「多様な特徴」の指示文(プロンプト)>

まず、特徴が異なる動物や生物を10個あげてください。次にその動物から連想できる特徴や機能を各10個あげてください。最後に、連想した単語と組み合わせて有益な機能を持つ〈アイデアを得たい対象を記入〉を7つ考えてください。
――『AIを使って考えるための全技術』(44ページ)より

「エクスカーション法」という、あなたの脳内でちょっとした“お出かけ”をして、そこで出合った「何か」をアイデアのヒントにする発想法があります。

「お出かけ先」はどこでもかまいませんが、たとえば「動物・生物」に“お出かけ”して、エクスカーション法を試してみます。自分が抱えているお題はいったん脇において、猫、イルカ、ワニ、蜘蛛、カブトムシ、薔薇、微生物……など、なんでもいいので動物・生物を10個書き出します。

 次に、リストアップした動物・生物から思い浮かぶ機能や特徴などを単語として書き出します。この時点ではお題との関連付けは不要です。

 猫→「にゃーにゃー鳴く」「集会をする」
 薔薇→「トゲ」「香水の素」「誕生日プレゼント」

 正解はありません。思いついたままで、できれば10個ほど書き出してみます。10の動物・生物×10個の言葉で、合計100個が目標です。

 この100個の言葉を、お題と掛け合わせます。仮にあなたが「ボールペンの新商品」を考えたいのであれば、「ボールペン×集会をする」「ボールペン×トゲ」など、お題といくつかの言葉を組み合わせて考えてみます。

 すると「何本か集めることで別の機能を持つペン」「指のツボを刺激してくれる突起があるペン」など、お題と言葉との組み合わせからアイデアが出てくるから不思議です。

 このエクスカーション法を、AIの力を借りて行うのが技法「多様な特徴」です。自分では思いつけなかった動物や、知らなかった特徴もざくざくと掘り出してくれるので、斬新なアイデアが生み出せます。

「傘」の新商品を考えてみよう

 この技法を使って、実践してみましょう。
 ここでは「傘」を例に実践してみます。

<AIへの質問>
まず、特徴が異なる動物や生物を10個あげてください。次にその動物から連想できる特徴や機能を各10個あげてください。最後に、連想した単語と組み合わせて有益な機能を持つ〈傘〉を7つ考えてください。

 さて、技法「多様な特徴」によって、AIはどのようなアイデアを出してくるのでしょうか。

<AIの回答>

10種類の動物・生物 → 各10個の特徴・機能 → それらを組み合わせた新機能を持つ「傘」7つを順に出します。

 

① 特徴が異なる動物・生物 10個

1. フクロウ
2. チーター
3. カメ
4. クラゲ
5. カメレオン
6. ハリネズミ
7. ペンギン
8. コウモリ
9. リス
10. イルカ

 

② 各動物・生物から連想できる特徴・機能 ×10個

1. フクロウ

360度近い首の回転/優れた暗視能力/静音飛行/高い聴覚/空間把握能力/夜行性/影に溶け込む保護色/旋回能力/柔らかい羽毛/素早い獲物捕捉

 

2. チーター

爆発的な加速/しなやかな身体/高い運動エネルギー効率/空気抵抗の少ない体形/爪の高いグリップ力/スピード維持/瞬発力/柔軟性/パワー/俊敏な方向転換

 

3. カメ

堅牢な甲羅/防御力/長寿/低消費エネルギー/ゆっくり活動/安定した歩行/防水構造/体を守るドーム形状/落ち着いた性質/地面への密着性

 

4. クラゲ

透明性/浮遊感/柔らかい構造/水中発光/触手の伸縮/ゆらめく動き/軽量/ゼラチン質の衝撃吸収/波と同調する運動/柔軟に形を変える性質

 

5. カメレオン

保護色(擬態)/独立して動く眼/伸びる舌/周囲環境の把握/変温性/色変化での感情表現/木にしがみつく能力/長い尾でバランス調整/すばやい捕食/表面質感の変化

 

6. ハリネズミ

針での防御/体を丸める/危険察知能力/夜行性/俊敏な反応/小型で携帯性/針の温度調整/外敵を寄せ付けない/振動に反応/身体を守る球形構造

 

7. ペンギン

防寒能力/スリムな流線形/水陸両用/高い断熱性能/群れの協調行動/滑らかな表面/足元の安定性/強い耐風性/水しぶきをはじく羽毛/厳しい環境への適応

 

8. コウモリ

超音波によるナビゲーション/夜行性/折り畳める翼/高速飛行/多方向分析/吊り下がる姿勢/空中停止に近い制御/群れ行動/物体検知能力/高い曲がり性能

 

9. リス

優れたジャンプ力/高いバランス感覚/木登り/食料の貯蔵/俊敏/ふさふさの尻尾/着地の衝撃緩和/軽量な体/素早い方向転換/巣づくりの巧さ

 

10. イルカ

高速遊泳/超音波コミュニケーション/高い知性/仲間との連携/水中での方向感覚/滑らかな皮膚/水を切る動き/社会性/流線形でのスピード/状況判断力

 

③ 連想ワード × 傘 を組み合わせた〈有益な機能を持つ傘〉7案

1|フクロウ × 空間把握 → 周囲360°危険検知傘

・傘の上部に全方位センサー
・後ろからの自転車接近などを静かに振動で通知
・夜道の安全性を向上
→ “フクロウの首のように死角がない”

 

2|クラゲ × 柔軟構造 → 自動で風圧を逃がす「しなる傘」

・クラゲのようにしなるフレーム
・強風でも内側反り返りゼロ
・衝撃を吸収するゲル構造
→ 都市部のビル風に最適

 

3|チーター × 空気抵抗軽減 → 風の日でも進みやすい「流線形傘」

・方向に応じて布が微妙に形状変化
・空気抵抗が激減し歩きやすい
→ “スピードを妨げない傘”

 

4|カメレオン × 色変化 → 気温や紫外線量で色が変わる傘

・紫外線が強い→濃い色に
・気温が高い→淡い色に
→ 持ち主に環境変化を自然に知らせる

 

5|ペンギン × 防寒能力 → ハンドルが温かい「断熱グリップ傘」

・ペンギンの羽毛断熱から着想
・冬の雨の日でも手が冷えない
・持つだけで温度維持
→ “寒い日専門”の快適傘

 

6|ハリネズミ × 危険察知 → 雨の日の夜道で光る安全傘

・周囲の振動を感知して外側LEDがふわっと点灯
・車や自転車に存在を知らせる
→ “丸まって光るハリネズミ”の安全機能

 

7|イルカ × 超音波 → 混雑回避ナビゲート傘

・人の密度を超音波で把握
・最もスムーズに歩ける進路をハンドルが軽く振動して案内
→ 傘の“イルカ的ナビ機能”

「フクロウ:周囲360°危険検知傘」
 雨の日の事故要因である「視界の悪さ」と「後方の死角」を、フクロウの全方位感覚というモチーフで一気に解決しにいっている。とくに、音ではなく「静かな振動」で知らせる設計思想は、ビジネスパーソンの日常導線にも自然に溶け込みそうです。

 また、「夜道の安全」という社会課題に正面から応えているため、個人ユーザーだけでなく、自治体・企業(深夜勤務の従業員向け)とのBtoB展開もイメージできます。ストーリー性と社会性、どちらも兼ね備えたコンセプトだと感じました。

「クラゲ:自動で風圧を逃がす“しなる傘”」
 クラゲの“しなり”を、強風対策という実利に落とし込んだ点が秀逸ですね。「壊れないための強度」ではなく、「壊れないように逃がす柔らかさ」という、設計思想の転換が起きている。ここにイノベーションの香りがあります。ビル風の強いオフィス街やターミナル駅前など、「傘が一番ストレスになる場所」を想定したときに、体験価値がかなり高そうです。

 さらに、ゲル構造やしなるフレームは、高価格帯のプレミアム傘市場とも相性が良く、「長く使える一本」としてブランドを築けそうです。クラゲという一見“弱そうな存在”から、耐風という“強さの価値”を引き出しているところに、コンセプトの上手さがありますね。

「イルカ:混雑回避ナビゲート傘」
 これは発想として一歩抜けていますね。「濡れないための道具」だった傘が、“人混みのストレスを減らすナビゲーションツール”にアップデートされています。駅・商業施設の人流データと連携するインフラサービスにも発展できそうですよね。

 技法その1「多様な特徴」、ぜひ活用してみてください。

(本稿は、書籍『AIを使って考えるための全技術』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です。この他にも書籍では、AIを使って思考の質を高める56の方法を紹介しています)