仕事や人間関係で、イヤな頼みごとを断れずに引き受けて後悔する。そんな経験は誰にでもあるだろう。では、頭のいい人はどうやってうまく「ノー」を伝えているのか。18言語で話題の世界的ベストセラー『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』から、訳者の栗木さつき氏にヒントをうかがった。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
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自分にとって「最も大事なこと」とは?
――本書では、人に「ノー」と言うことの重要性が繰り返し語られています。日本の仕事文化だと、マルチタスクでなんでもテキパキこなさなきゃと思いがちですが、この考え方を変えるヒントをいただけますか。
栗木:まず、自分は何に集中すべきなのか、「自分にとって最も大事なこと」を明確にすることが大切です。仕事だけでなく、心身のバランスを取ること、家族との時間といった対人関係も含まれます。自分の決めた大事なことを優先しなければ、充実した人生を送ることはできません。
この本は、まわりからの頼み事につねに応じる必要はないと教えてくれます。以下は本書からの引用です。
「ノーと言うからといって、無能なわけじゃない!」
頼み事にいつでも応じるより、ときには応じないほうが断然いい。
四六時中、人の頼み事にイエスと応じていたら、自分の仕事など決してできない。――『一点集中術』より
この考え方を意識することが、自分の時間を守るうえでとても大事だと感じました。
頼み事をスパッと断るには?
――人間関係において「ノー」を伝えるのは難しいですが、相手の信頼を損なわないよう、上手に頼み事を断るにはどうすればよいでしょうか?
栗木:自分のなかで優先順位を明確にして、腹をくくって答えることです。
「すみません、いまは最優先でこの仕事に取り組んでいますので、それについては◯日まで引き受けられません」
ポイントは、自分の優先順位を端的に伝えることです。
それでも、「その仕事よりこの仕事のほうが会社にとって優先すべきだ」と言われてしまえば、それは会社員として受けざるを得ないと思います。ただ、そうでもないのに、なんとなく振られただけなのであれば、これ以上は踏み込みにくくなります。
そんなことしなくても世界は終わらない
――目の前に頼み事が振ってくると、「絶対やらなきゃ!」「すぐやらなきゃ!」とプレッシャーを感じてしまう人は多いと思います。
栗木:そうかもしれません。でも大半の仕事はじつはそこまで緊急でも重要でもないものです。本書には次のような一説もあります。
生死に関わる仕事に就いている人には、次々と生じる緊急事態に対応するための厳格なシステムが用意されている。だがそれ以外の人にとっては、そのときどきは大変な緊急事態に見えても、それらの要請に即座に対応できないからといってそれで世界が終わるわけではない。――『一点集中術』より
仕事をしていると、目の前の案件や依頼が、どれも「いま最優先で対応しなければならないこと」のように見えてしまうかもしれません。
しかし実際には、その多くは「緊急に見えているだけ」で、本当に重要なこととは限りません。いわゆる「ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)」も混ざっています。
もちろん、これは「仕事を無視したり放置したりしていい」という意味ではありません。多くの場合、相手が本当に求めているのは、こちらが即座に引き受けることではなく、「やるのか、やらないのか」「いつ判断できるのか」をはっきりさせることだったりします。
毎日を「意識的」に生きる
こうした仕事に反射的に応じ続けていると、時間も集中力も細切れになり、本当にやるべき大事なことに手をつけられなくなってしまいます。
だからこそ私たちは、その都度「次に何をするか」を意識的に選ばなければなりません。どの要請に応じ、どれを後回しにするのか。その選択が、そのまま人生の使い方になります。
本書にも書いていますが、SNSを遮断したり、スマホを隔離したり、時間を決めて会議室にこもって集中したり。そうした選択を重ねることで、一日はただ消費されるものではなく、意識的に使える時間へと変わっていきます。一点集中を実践し、自分にとって本当に重要なことを優先することが、充実した日々をつくるカギなんです。
(本記事は、デボラ・ザック著『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』の翻訳者インタビューです)









