「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。
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答えのない時代に、
正解を追い求めていないか?
あなたの会社では、中期経営計画や事業戦略書をつくっているでしょうか。
もちろん、それらが株主や従業員に説明責任を果たすうえで、役に立つ場面はあります。
しかし現代は、かつてのモノづくり中心の時代から、サービスや体験を重視するコトづくりの時代を経て、スマホやAIの普及によって価値が人と人のつながりから生まれる「場づくりの時代」へと移行しています。
特にAI革命は世界中で同時に起きており、誰かが用意した答えに沿って動くだけでは競争力を維持できません。
このような環境では、従来のように時間をかけて“完成された戦略”をつくっても、状況の変化に追いつかず、現実との差は広がるばかりです。
変化が激しい今こそ、戦略を文書として固定するより、状況に応じて更新し続ける視点が求められています。
羽生善治永世七冠が語る
「将棋に闘争心はいらない」の真意
通算1600勝を達成した羽生善治永世七冠は、意外な言葉を残しています。
「将棋に闘争心はいらない」
勝負の世界とは思えない発言ですが、ここには重要な示唆があります。
私なりの解釈では、相手に勝とうと力むのではなく、目の前の局面で最善手を積み重ねることに集中することが本質であり、その積み重ねが結果として勝利につながるということです。
どれだけ先を読んで戦略を立てても、相手が想定外の一手を指した瞬間に勝負の局面は変わります。
これは、環境変化が激しいビジネスの世界にも同じことが言えるのではないでしょうか。
AI時代は、相手の一手どころか市場全体が数か月で変わる世界です。
つまり、過去につくった戦略の精度よりも、状況に応じて最善手を更新し続ける姿勢こそが成果につながるのです。
技術を導入するだけでは成果は出ない、
鍵は「場づくり」
全社的に生成AIを導入しても、現場で活用が進まないケースは少なくありません。
どれだけ優れたツールを導入しても、チームがまとまらず、メンバーが自律的に動けない組織では仕組みは機能しないためです。
ここで重要になるのが、「技術を運用するための場」をどう設計するかという視点です。
場づくりとは、人が動き出す環境そのものを整えることです。
・部門を超えて学び合う場
・試行錯誤を共有できる対話の場
・他部門との協働を促す関係性の場
たとえば、こうした場があると、メンバーは自然と自ら動き出し、成果につながる変化が生まれます。
実際、新規事業が進まない会社でも、アイデア不足ではなく、対話する場が不足しているだけということは少なくありません。
変化の時代に求められるのは「視点の更新」
AIや新しいツールを導入しただけでは、戦略は実現しません。
人がつながり、互いの知を活かし合える仕組みをどう整えるかという視点が、どんな組織にも求められる戦略の核心になっています。
これからの戦略とは、環境に応じて視点を変え、価値を再定義し、仕組みを進化させる動的な営みです。この営みを形にする力を、私は「戦略をデザインする力」と呼んでいます。
『戦略のデザイン』では、最善手を積み重ねるための場づくりの方法を10のレッスンでまとめています。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




