サイバーエージェント創業者の藤田晋会長 Photo by Shogo Murakami
サイバーエージェント創業者、藤田晋。24歳で起業し、26歳で史上最年少上場(当時)を果たして以来、四半世紀以上にわたりIT業界のトップランナーとして走り続けてきた。スマートフォン時代の到来を予見し、新しい未来のテレビ「ABEMA」の開局、「ウマ娘 プリティダービー」をはじめとしたスマホゲーム事業での大型ヒット、経営権を取得したプロサッカーチーム「FC町田ゼルビア」のJ1昇格――。その手腕は「稀代の勝負師」と評されることも多い。そんな藤田氏の新刊『勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術』(文藝春秋、2025年11月30日刊行)は今もっとも伝えたいビジネスの鉄則をまとめたという。藤田氏に仕事哲学について聞いた。(取材・構成/イトモス研究所所長 小倉健一)
決断機会も成長機会も
なければ人は育たない
――藤田さんは52歳となる今年(2025年)12月12日付で社長を退き、会長になります。多くのカリスマ創業者が引き際を見定めるのが難しい中でかなり早いように思います。京セラの稲盛和夫さんは54歳で会長になり、後継に引き継ぎましたが、同じくらい早いタイミングですね。
藤田晋(以下、藤田) 稲盛さんはそんなに早かったんですね。色々な社長交代の事例を社内で調べましたが、多くのカリスマ創業社長が社長交代に難航していて、うまくいった事例を探すのが難しかったように感じました。
世の中にはファミリー経営の企業もあり、企業によって方針も異なると思いますが、私はもともと本物のパブリックカンパニーを作るつもりでやってきました。会社を自分のものだと思ったことは一度もありません。でも、創業社長という立場は、細かく説明しなくても社員みんなが言うことを聞いてくれるようになってしまいます。
サイバーエージェントの社長としての経験を私だけが独占していたら、社長としての決断機会も成長機会も全て私に集約され、社長が圧倒的な存在になりすぎてしまいます。
それはどこの部署でも同じことなんですけど、例えば広報部にものすごく優秀な人が一人いて何年もその人が全部仕事を回していたら、下が育たないですよね。
経営者がメディアにインタビューされて流暢に話せるようになるのも、機会が多いことで訓練されるもので、説明責任がある立場に立たないとなかなか身につかないものです。
サイバーエージェントの社長という仕事を私一人しか経験していない状態がもう四半世紀続いているので、早く手をつけないと私の代で会社が終わってしまうかもしれないと危機感を抱きました。時間が経つほどどんどん差が開いていくので、じきに私が社長をずっと続けることに対して誰も疑問を呈することもなくなってしまうだろうという状況でした。







