ダメなリーダーは「頑張れ」が口癖
――では、「構想力」とはどういうものですか?
鈴木:僕の理解では、本間さんが言っている「イメージ」は、「構想力」と「想像力」の2つを足したものを指していますね。つまり、どの山に向かって、どういうルートで、どのような方法で行くみたいなのを全て含めて「イメージ」って言うんですけど。
私が使う「構想力」は、まず「どの山に登るのか」みたいなことです。では、「どのような方法によってそこまで行くか」っていうのは想像力。
たとえば、山道なのに「新しいスポーツカーが流行っていて、すごい馬力があるからこれで行きましょう」と言うリーダーがいたとします。でも、山道にスポーツカーって全く適さないわけですね。
だけど、「ああいう山道を行くなら、こういう装備を持って行った方がいい」「こういう車で行く方がいいんじゃないか」みたいなこととか、あるいは「景色がいいんだから歩いた方がいいかもしれない」とか、これが「イメージ」と言うことではないでしょうか。
本間:そうかもしれません。部署の成果を上げていかなければいけないとき、構想力のないリーダーだと「頑張れ、よし次はこれだ…」って、場当たり的かもしれないけど、策は思いつくと思うんです。
でも、「皆がいきいきと話し合ってやっている」とか、「いいクライアントを連れてくる」とかって、そういうところの構想力がないわけじゃないですか。単に「頑張れ、頑張れ」っていうことだけではうまくいかない。
鈴木:ゴールの設定の仕方っていうのが単純ではないので複雑ではありますよね。特に現場レベルだと、組織としてのゴールもありつつ、一方でフォロワーである部下の個々人が見えてくる。
「部下のXさんが10年先どういうふうになっていたらいいのか」とか、複数のゴールを同時達成していかなければいけないわけです。まるで、複雑な連立方程式を解いていくかのようですよね。
スポーツなどの場合は大会に向けて練習したりとチームの“時限”が区切れるけど、会社の場合連続していくところもあるので、どの段階で「こうありたい」に到達していればいいのかを定めにくい。
そして、構想に向かって皆を動かしていくことはもっと複雑。でも、そういうものを駆使しながら「こうありたい」という構想を達成していくのがリーダーシップですよね。
――なかなか難しいことのように感じます。
鈴木:最適解を求めるから難しいのではないでしょうか。実はスポーツだって皆手探りで練習方法だって試行錯誤していく。でも、行き当たりばったりでやるのはさすがに思考力がなさすぎる。それでうまくいくこともあるかもしれないけど。私の新刊『リーダーシップの科学』はその手掛かりになればと思って書いています。
本間:先ほど鈴木先生が言ったように、組織って連続性がありますよね。だから行き当たりばったりで、そこまで考えなくてもうまく動けるようになってしまうんだと思います。それに、評価する時にも結果オーライみたいなところがある。
――たまたまヒットが出て、ラッキーみたいな感じで。
本間:そうなると結局行き当たりばったりになりますよね。ただ、成功確率を上げたり、「よいリーダー」になったりするためには、構想力に加えてどう組織に関与していくのかが重要です。
(本稿は、鈴木竜太教授の新刊『リーダーシップの科学』の発売を記念した特別対談です)
神戸大学大学院経営学研究科教授
1971年生まれ。1994年神戸大学経営学部卒業。ノースカロライナ大学客員研究員、静岡県立大学経営情報学部専任講師を経て、現職。専門分野は経営組織論、組織行動論、経営管理論。主な著書に『組織と個人』(白桃書房:経営行動科学学会優秀研究賞)、『自律する組織人』(生産性出版)、『関わりあう職場のマネジメント』(有斐閣)、『(はじめての経営学)経営組織論』(東洋経済新報社)。共著に『組織行動』(有斐閣)。共編著に『お仕事マンガの経営学』(有斐閣)などがある。
本間浩輔(ほんま・こうすけ)
・パーソル総合研究所取締役会長
・朝日新聞社取締役(社外)
・環太平洋大学教授 ほか
1968年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、野村総合研究所に入社。2000年スポーツナビの創業に参画。同社がヤフーに傘下入りしたあと、人事担当執行役員、取締役常務執行役員(コーポレート管掌)、Zホールディングス執行役員、Zホールディングスシニアアドバイザーを経て、2024年4月に独立。企業の人材育成や1on1の導入指導に携わる。立教大学大学院経営学専攻リーダーシップ開発コース客員教授、公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル代表理事。神戸大学MBA、筑波大学大学院教育学専修(カウンセリング専攻)、同大学院体育学研究科(体育方法学)修了。著書に『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』(ダイヤモンド社)、『1on1ミーティング 「対話の質」が組織の強さを決める』(吉澤幸太氏との共著、ダイヤモンド社)、『会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング』(中原淳・立教大学教授との共著、光文社新書)、『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』(光文社新書)がある。










