「よいリーダー」とは、カリスマ性で人を動かせる人のことではない。神戸大学・鈴木竜太教授は、新刊『リーダーシップの科学』で、「よいリーダー」には“よいリーダーシップ”“正しい方向へ構想できる力”の両方が欠かせないと説く。では、現場のリーダーに足りないものは何か。本稿では、ヤフーの人事担当役員を歴任し、『増補改訂版 ヤフーの1on1』の著者でもある本間浩輔氏と共に、「行き当たりばったりのマネジメントから抜け出す方法」について、対談からひもといていく。

「何をやっても成果を上げられないリーダー」が職場で言いがちなこと・ワースト1Photo: Adobe Stock

「強力なリーダーシップ」=「よいリーダー」は勘違い

――鈴木先生の新刊『リーダーシップの科学』では、リーダーシップをどのようなものだと定義していますか。

鈴木竜太(以下、鈴木):この本のなかでは、ニューヨーク州立大学のユクリとテキサス工科大学のガードナーの

「リーダーシップとは、何をすべきか、どのようにすべきかを理解し、同意するように他者に影響を与えるプロセスであり、共有された目標を達成するために個人や集団の努力を促進するプロセスである」(訳:鈴木竜太)

 という定義を前提としています。これは、多くのリーダーシップ論を包括する定義だと思いますが、もし違うものを持ってきてしまうと、これまで積み重ねられたリーダーシップ論と齟齬が出てきてします。本書では、“リーダーシップ論からリーダーシップを学ぶ”ので、あえて広めの定義を前提としています。

――では、「よいリーダー」とはどういうものなのでしょうか。

鈴木そもそも「よいリーダー」と「よきリーダーシップを発揮すること」って少し違うんです。強力なリーダーシップがある人が、優れたリーダーであるとは限らない。

 たとえば独裁者のように、間違った方向であっても皆がついていってしまうとしたら、それは本当に「よいリーダー」と言えるのか疑問ですよね。なので、リーダーシップがあって集団を動かせることはすごく大事な要素だと思いますけど、それだけが「よいリーダー」を決めるわけではありません。

「よいリーダー」のもう1つの要素は、「正しく、よい方向へ構想が立てられるか」どうかです。「よいリーダーシップ」と「正しく、よい方向へ構想が立てられるか」の2つが揃ってはじめて目標に向かってみんなを動かす「よいリーダー」と言えます。

 構想が素晴らしくても、全く人を動かすことができない、全く人から信頼されない人は、大きなことを成し遂げられない。それでは「よいリーダー」とは言えないだろうということになるわけです。

本間浩輔(以下、本間):僕はよく「イメージマネージ」と言っているのですが、その組織の「勝ち筋」がイメージできるかが大切なのではないかと考えています。

 色んな人が言っていますが、イメージできないものはマネージできない。組織が成果を上げるために、どういう状況になっているのが望ましいかのイメージができれば、それに対する関わり方ができる。鈴木先生の「構想して働きかける」という話と同じだなと感じます。案外、現場のリーダーに足りていないのは「構想する力」だと思うんです。要するに、イメージする力がない。

 たとえば、とある会社にAという部署があったとしたら、毎年会社のKPIを突破するために、誰がどういう働き方をすべきかを思い浮かべることが必要です。そして構想と現状との差分を埋めていく時に、リーダーがどうフォロワーやフォロワー同士の人間関係に関わるのかを考えることが必要なのではないでしょうか。