「算数ってこんなに面白かったっけ?」
と話題沸騰中の学参『たった1日で誰でも開成・灘中の算数入試問題が解けちゃう本』は「AIにできないこと」「学歴より大事なこと」をテーマにした前代未聞の算数エンタメ本だ。2児の父である本書の担当編集が、本書を絶賛し『子どもが本当に思っていること』などの著書がある精神科医さわ先生に「学歴より大切なこと」をテーマにインタビューを行った。(インタビュー ダイヤモンド社・淡路勇介/構成 山守麻衣)

たった1日で誰でも開成・灘中の算数入試問題が解けちゃう本Photo: Adobe Stock

「国公立大学に行けないお前は、生きている価値がない」
と言った親がいた

――親としてやはり子どもに「いい学校に行ってほしい」と思ってしまうのですが、さわさんは精神科医として、学歴に対する親御さんの不安を感じる場面は多いですか?

精神科医さわ(以下、さわ):そうですね。「国公立大学に行けないお前は、生きている価値がない」そんな言葉を実際に子どもに向けてしまう親御さんもいました。親にとっては“成功”の証のように見える学歴が、子どもにとっては追い詰められる原因になってしまうこともあるのです。

――先生ご自身も、医学部時代にそうした現実を目の当たりにされたとか。

さわ:私自身、医学部生や研修医が自ら命をたった、という知らせを何度か聞いたことがあります。たとえ医学部に入れたとしても、また医師になれたとしても、それが親にとって成功だと思えたとしても、命がなくなってしまったら……それでも親は子どもにその道を望むべきなのでしょうか。もちろん、その方々の死が全て親のせいだと言いたいわけではないです。

――それは、特定の大学や学部に限った話ではないのでしょうか?

さわ:東大をはじめ、どこの大学にも同じような問題はあります。だからこそ、親の関わり方や、社会全体の学歴至上主義の空気が少しでも変わっていけば、日本の自殺者数は本当に減るのではないか、と私は思っています。

――では、「学歴よりも大事なものベスト3」をあげるとしたら何でしょうか?

第3位「夢中になった経験」

さわ:順位をつけるのは難しいですが、私が大切だと考えているもののひとつが、「夢中になった経験」です。子ども時代に、遊びでも、スポーツでも、もちろん勉強いいのですが、「気づいたら時間を忘れて打ち込んでいた」という経験をどれくらい持てるか。これは、その後の人生の支えになります。

――先生ご自身は、そういう経験がありましたか?

さわ:私は、親の影響もあって、勉強するのが当たり前、頑張るのが当たり前、という環境で育ちました。もちろん、そのおかげで今の私がありますし、親への恨みがあるわけではありません。ただ、「やりたくない勉強をずっと続けてきたことで、本当に自分が夢中になれたものに気づけなかったとしたら、それは少し不幸だったかもしれない」と感じる瞬間もあります。

――なるほど。「夢中になれるもの」に出会えるかどうかって人生においてかなり大事ですよね。

さわ:そうです。やりたくないことを無理に続けるのではなく、自分が心からおもしろいと思えることに出会えるようにしてあげること。簡単ではないですが、親としても大事なことだと思いますね。「もっと他に、自分が夢中になれるものがあったかもしれない」――そう思わなくて済むような環境を用意すること。これが、第3位の「夢中になった経験」です。

――順位をつけるのは難しいとは思いますが、第2位をあげるとしたら何でしょうか?

第2位「自分への信頼(自信)」

さわ:もうひとつ大事なのが、「自分への信頼」です。

――自信ってことですか?

さわ:そうですね。多少時間がかかっても、「やろうと思えば、いつからでも学び直せる」と思えること。失敗したり、遠回りしたりしても、「自分ならなんとかできる」という感覚を持てること

――それは、自分を信頼しているから思えることですもんね。

さわ:そうです。これは、偏差値やテストの点数が手に入るわけではありません。親から無理やりやりたくない勉強ばかりを積み重ねて、「なんでできないの!」と叱られて育てられてきた子どもは、「自分はダメだ」「やっても報われない」というメッセージを受け取り続けてしまいます。

――学歴がよくても自己肯定感が低い子がいるって聞いたことがあります。

さわ:上を見たらキリがないですからね。そこそこいい点数なのに、「◯◯ちゃんはもっといい点とってるのに!」と親から言われると、「自分はいくらやってもダメなんだ」と思ってしまいます。

――たしかに、極端な話、それだと、全部満点とって、東大に行かないと報われなくなります。

さわ:そうなんです。逆に、自分の興味あることや好きなことで小さな成功体験を重ねて、周りから認められた経験を持つ子どもは、「自分はやればできる」「自分には価値がある」という感覚を少しずつ育てていくことができます。『たった1日で誰でも開成・灘中の算数入試問題が解けちゃう本』の著者の菅藤さんもそうでしたよね。

――そうですそうです。小5の夏休みに宿題の算数の問題集を5周もして先生にすごく褒められて、中でも図形問題だけは誰にも負けない自信になったと。夢中になった経験でもあり、自分に自信を持てた経験でもあります。

たった1日で誰でも開成・灘中の算数入試問題が解けちゃう本
たった1日で誰でも開成・灘中の算数入試問題が解けちゃう本
たった1日で誰でも開成・灘中の算数入試問題が解けちゃう本マンガ:うのき 『たった1日で誰でも開成・灘中の算数入試問題が解けちゃう本』(ダイヤモンド社刊より)

さわ:そうですね。こういう経験を子どものころにできるかって、ほんとにどこの学校に行くかよりも大事なことだと思います。

――「夢中になる経験」「自分への信頼」この2つを支えるためにも、もっと大事な土台があるんですよね。

さわ:はい。それが、第1位の……