大企業のエース、SNSでバズる論客、肩書きと実績にあふれた同世代――社会に出れば出るほど、「自分はああいう“エリート”“天才”にはかなわないな」と感じる場面が増えていきます。子どもの中学受験を考える親御さんも同じで、「うちの子はごく普通だから、トップ層には届かない」と、どこかで線を引いてしまいがちです。
「もっと早く出会いたっかった!」「子どもと夢中になった!」と話題沸騰中の本『たった1日で誰でも開成・灘中の算数入試問題が解けちゃう本』は開成・灘などの有名私立中学の入試問題を、フルカラーのイラストと漫画、先生と小学生の対話形式で解説し、「補助線1本で世界の見え方が変わる」体験を何度も味わえる一冊。著者は、関西屈指の名門、洛星中学・高等学校から慶應義塾大学に進学、現在はDeNAのAIプロダクトマネージャー兼AIエンジニアとして働きながら、算数入試問題の解説YouTubeチャンネル「まなびスクエア」を運営する菅藤佑太氏。本記事では、菅藤氏に「天才と凡人の差」「凡人が天才に勝つ戦略」と、図形問題を通してその感覚を体験できる本書とのつながりについて、話をうかがいました。(取材・構成/山守麻衣・ダイヤモンド社 淡路勇介)
マンガ:うのき『たった1日で誰でも開成・灘中の算数入試問題が解けちゃう本』(ダイヤモンド社刊より)
エリートと一般人の差とは何なのか?
菅藤さんは、自身について
「自分は頭が良いわけではないし何事にも真面目に取り組めるわけではなく、パリッとした綺麗な肩書きがあるわけではないのでエリートとは程遠い存在です」
と話します。
理由はシンプルです。
「自分にも、『ここが決定的に足りないな』というコンプレックスがいくつもあるからです。普通の人なら自然に身につけてきたような文化や感覚にあまり触れずに青春時代を過ごしてきたこともあって、社会に出てから『あ、自分はここが欠けているな』と痛感する場面が何度もありました」
そうした実感から、菅藤さんは“エリート”と“一般的な人”の差を、こう捉えています。
「生まれつきの才能だけではなく、『自分に足りないものの数』が少ないか多いか、という違いにすぎないのではないかと思うんです」
同時に、いわゆる「総合力」――頭の良さ、論理的思考力、知識量、発信力などを全部ひっくるめた“トータルスコア”で、超一流の人たちに勝つのは「正直かなり難しい」とも率直に認めます。
例として挙げるのが、イェール大学で教鞭をとる経済学者・成田悠輔さんです。
「数学や経済学、社会学などの専門的な知見があり、それを一般の人にもわかりやすく伝える力も持っている。そういう方とテレビ番組で総合力勝負をしたら、おそらく私はボコボコにされるでしょう」
では、凡人はどんな場面でも絶対にエリートに勝てないのか――。
菅藤さんの答えは、NOです。
“ここなら勝てる”と思えるニッチを持つ
菅藤さんが大事だと考えているのは、「総合力ではなく、細かく分けたひとつの分野で戦う」という発想です。
「たとえば、算数の図形問題。それも、ちょっとひらめきが必要で、補助線をどこに引くかで世界がひっくり返るような問題だけに絞る。この超ニッチな分野に限って言えば、『自分は成田さんに勝てるかもしれない』と本気で思っています。本当に勝てるかどうかは別ですけどね。今までに解いてきた問題の量や、そこで培われた経験値がまったく違うからです」
中高時代に夢中になっていたゲームの世界でも、同じことが起きたと言います。
「当時、10万人規模のアクティブユーザーがいたゲームの特定の分野で、トップ100に入ったことがあります。別にゲームの才能があったわけではなく、単に他の人がやらないくらい長時間プレイし続けただけです」
算数の図形にしてもゲームにしても、「この狭い分野なら、誰にも負けないかもしれない」と思える場所がある――その感覚そのものが、自分への大きな自信になっていったと振り返ります。
ここで重要なのは、「実際にエリートと直接勝負して勝ったかどうか」ではありません。
「『おそらく勝てる』と自分で思えるだけのニッチを持てたこと。そして、『人がやらないくらい突き詰めれば、誰でもどこかで上位に行ける』という実感を持てたことが大きいと思います。その原体験が、中学受験の勉強で図形問題だけは灘や開成に行くような天才にも負けないと思えた経験です。YouTubeで中学入試の図形問題ばかり解説しているのも、難関中学の図形問題だけに特化して、それをフルカラーで対話形式でとことんわかりやすく解説する本を作ったのも、同じような経験をしてほしいと思ったからです。算数の図形問題だけやってる人は少ないですからね」

菅藤氏の「天才にも負けない」と思えた経験。マンガ:うのき『たった1日で誰でも開成・灘中の算数入試問題が解けちゃう本』(ダイヤモンド社刊より)
そしてもう一つ、菅藤さんが大事にしていることがあります。



