新刊『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』は、東大・京大・早慶・旧帝大・GMARCHへ推薦入試で進学した学生の志望理由書1万件以上を分析し、合格者に共通する“子どもを伸ばす10の力”を明らかにした一冊です。「偏差値や受験難易度だけで語られがちだった子育てに新しい視点を取り入れてほしい」こう語る著者は、推薦入試専門塾リザプロ代表の孫辰洋氏で、推薦入試に特化した教育メディア「未来図」の運営も行っています。今回は、成績が上がらない塾は辞めるべきかどうかについて解説します。

塾 中学生Photo: Adobe Stock

塾に通っても成績が上がらない…

みなさんは、こんな状況に置かれたらどう判断するでしょうか?

息子が、ある塾に半年ほど通っています。クラスは決して下位ではなく、むしろ「そこそこ上のクラス」です。勉強をサボっているわけでもなく、塾に行くこと自体を嫌がっている様子もありません。むしろ、塾の中で気の合う友達ができたようで、楽しそうに通っていますし、家でも机に向かう時間は以前より増えました。少なくとも、「勉強する習慣」という点では、明らかな変化が見られます。ただし、肝心の成績はというと、正直なところ、あまり上がっていません。

半年も通っているのに結果が出ていない。この一点だけを見ると、親としてはどうしても不安になります。「この塾、本当に合っているのだろうか」「もっと成績が伸びる塾があるのではないか」。そう考えるのは、決しておかしなことではありません。

実際、「成績が上がらないなら辞めさせた方がいい」と判断する人もいるでしょう。それも一つの考え方です。ただ、私はこのケースでは、必ずしも急いで塾を辞めさせる必要はないのではないか、と思います。

なぜなら、この子はすでに「勉強に向かうための土台」を少しずつ手に入れ始めているからです。勉強の習慣がつき、安心して通える場所があり、人間関係もうまくいっている。これは、数字には表れにくいですが、学力が伸びる前段階として非常に重要な状態です。

成績というのは、原因ではなく結果です。今はまだ点数に反映されていなくても、その裏では、机に向かう抵抗感が減っていたり、「勉強=嫌なもの」という意識が薄れていたりするかもしれません。そうした内側の変化は、テストの点数よりも一足先に起こることが多いのです。

ここで親が「結果が出ていないから」という理由だけで環境を変えてしまうと、せっかく育ち始めたその芽を、自ら摘んでしまうことになりかねません。子ども自身は前向きなのに、大人の焦りによって居場所を失う。これは、実際によく起こる失敗です。

「英検2級を取らせたいんです」

私は日々、保護者の方からさまざまな相談を受けます。その中で特に多いのが、「英検○級を取らせたいんです」という声です。もちろん、資格や検定自体が悪いわけではありません。ただ、そのときに必ず考えてほしいのが、「その子自身は、英語をどう感じているのか」という点です。

もし、その子が英語に強い苦手意識を持っていて、英語そのものが嫌いだったとしたらどうでしょう。どれだけ塾を増やしても、どれだけ教材を変えても、親がどれほど本気でも、うまくいかない可能性は高いです。なぜなら、エンジンがかかっていない状態でアクセルだけを踏んでいるからです。

結局、勉強で一番大事なのは、子ども本人が前を向いているかどうかです。今はまだ成績が伸びていなくても、やる気が芽生え、学ぶ姿勢が育っている状態であれば、それは長い目で見て、とても良い兆候だと言えます。

勉強は短距離走ではありません。特に小中学生の成績は、一直線に伸びるものではなく、ある日突然、ガクンと伸びることがあります。そして、その「伸びる直前」は、外から見ると停滞しているように見えることが少なくありません。

塾を辞めるかどうかを考えるとき、点数だけを基準にするのは簡単です。でも、本当に見るべきなのは、「この環境の中で、子どもが前向きに学べているか」「今いる場所を失ったとき、次の環境は本当にプラスになるのか」という点です。

成績が上がらないから、すぐに変える。それは大人の世界では合理的な判断かもしれません。しかし、子どもの成長は、必ずしも合理性だけで測れるものではありません。

今、その子の中で、学びたいという気持ちが育ち始めているかどうか。私は、そこを何よりも大切にして判断してほしいと思います。

(この記事は『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』を元に作成したオリジナル記事です)