よいリーダーを目指すあなたに、足りないものは何か――。それは、センスや経験ではなく、経営学の知識に裏打ちされた「考え方」かもしれない。書籍『リーダーシップの科学』は、最新のリーダーシップ論の知見まで網羅した1冊だ。部下にとって最大のチャンスと思えるような仕事を用意しても、部下はまったくやる気を出さない。上司の思いが空振りしてしまうのはなぜなのか。本記事では、そのエッセンスを一部抜粋・編集して紹介する。

メンバーのやる気がまったく出ない! 上司がやりがちな残念な行動Photo: Adobe Stock

魅力的な「ご褒美」があっても、部下はなぜ動かなかったのか

 リーダーが考えるべきことは、努力→成果→報酬の確率を上げること、努力が成果に結びつくように必要な努力を見極めること、報酬の価値を見極めること、そして報酬を公平性をもって定めることになる。

 リーダーは、がんばっても成果が出ないだろうと考えるフォロワー(部下)を勇気づけたり、成果を上げた際には報酬が得られることを説明したりすることになる。また努力が成果に結びつくために具体的にヒントを与えたり、フォロワーが望む報酬を提示したりすることも重要である。

 ポイントはいずれもリーダーからの視点ではなく、フォロワーからの視点で上記のことを考える点にある。

 私が教えたMBAの学生の論文で、次のようなケースを分析した論文があった。彼はテレビ局に勤め、ロンドン五輪の際にスポーツ報道部の部長をしていた。五輪の取材には取材パスが必要だが、その数には制限がある。そのため、彼は部下の記者たちに、この半年の仕事ぶりで五輪の取材パスを渡す記者を決めるから、各人がんばって欲しいとメッセージを送った。

 スポーツ記者にとって五輪の取材は憧れの仕事であり、大きなチャンスである。部長である(MBA学生である)彼も、公平にこの半年の仕事ぶりから派遣する記者を決めようと考えていた。しかし、記者たちはそれほどやる気を出すわけでもなく、彼の思惑とは異なることとなった。

 なぜ魅力的な報酬が記者のやる気を引き出さなかったのかということを疑問に、彼は研究を進めた。結果、記者がやる気を見せなかった理由としては、以前の大きな大会でも同様のことを言っていたが、最終的には順当なキャリアがある人が選ばれていたこと(つまりは実はだいたい派遣したい記者は決まっているのではないかと思っていた)、自分ががんばってもきっと選ばれるような成果を上げることは難しいことなどを挙げていた。

 またオリンピックのようなトップアスリートよりも陽の当たらない競技でひたむきにがんばっているアスリートに関心があることを述べていた記者もいた。もちろん、誰もやる気を出さなかったわけではなく、密かにやる気を出していた記者もいたが、選ばれなかった時に気恥ずかしさがあることから表立ってはやる気を見せなかったという。

 このようなリーダーとフォロワーの間の思惑の齟齬を生んだ結果、リーダーの(オリンピック取材を報酬にモチベーションを高める)取り組みは功を奏さなかったのである。もちろん部長である彼は過去の実績にとらわれずに半年の成果で決めようと思っていたし、それについても話していた。しかし、そのことがフォロワーには伝わっていなかったのである。

考えるべきは部下と自分の関係性

 このような事例に心当たりがある人も多いのではないだろうか。結果的にはこのリーダーがとった方法は功を奏さなかったが、この事例では、方法そのものが問題だったわけではない。自分とフォロワーの関係性を読み違えてしまっていたことや、フォロワーの受け止め方を読み違えてしまった結果、このような空振りとも呼べる結果になってしまったのである。

 リーダーとして何をすべきかと考えることは大事だが、その方法がきちんと作動するかどうかを、しっかりと見極める必要がある。リーダーシップはリーダーの振る舞いだけで作動するのではなく、リーダーとフォロワーの関係性を踏まえて作動するものだということを、改めてリーダーは考えておく必要がある。

 自分がフォロワーにどのように捉えられているのか、フォロワーにとっての報酬とは何かをきちんと把握しておかなければ、一般的に効果的な方法も上手くいかないことがある。

(本稿は書籍『リーダーシップの科学』を一部抜粋・編集したものです)